「命売ります」

tetu-eng2015-12-27

命売ります
三島 由紀夫
ちくま文庫
2015年10月25日第二十四刷

今年の最後の「読書雑感」が、三島由紀夫というのは、ちょっと、重いかな。

命売ります」なんて、タイトルの作品、これも、何となく、重いかな。

三島由紀夫、1970年(昭和45年)に市ヶ谷の陸上自衛隊の駐屯地で割腹自殺をしたことは、ぼくの記憶の中にも鮮明です。当時は、まだ、高校生だったので、政治的なことは判りませんが、テレビでは、自衛隊の建物に立て籠もったシーンから、ずっと、放映されていたらしいです。

そして、最後に、日本中を驚かせたのが、割腹自殺という結末でした。

それから、三島由紀夫の小説、「仮面の告白」「金閣寺」などの代表的な作品を読みましたが、そのあと、没後45年、なぜか、紀伊国屋の平台で、この本を見つけ、興味を持ったのです。

命売ります

自殺に失敗した青年「羽仁男」

『考えに考えた末の自殺ではなく、たしか、その夕食をするスナックで夕刊を読んでいるあいだに、急に死にたくなったのだった。
それから、ピクニックへでも行こうというように急に自殺を考えたのだが、強いて理由をたずねると、全然自殺の理由がなかったから自殺したとしか考えようがない。』

年末になるとJR神戸線では、人身事故によるダイヤの乱れが頻発します。酩酊客による不慮の事故かと思っていたら、ほとんどが自殺ということらしいです。日本では、年間2万5千人の尊い人命が自殺によって失われています。大変に、痛ましいことです。

「羽仁男」は、理由なき自殺未遂ということで、お話の出だしから、ちょっと、コミカルな雰囲気です。

『自殺をしそこなった羽仁男の前には、何だかカラッポな、すばらしい自由な世界がひらけた。
その日から、今まで永遠につづくと思われた毎日がポツリと切れて、何事も可能になったような気がした。その日その日が二度と訪れず、毎日毎日がちゃんと息絶えて、蛙の死骸みたいに白い腹を見せて並んでいる姿が明瞭に見える。』

『これで、自分は誰にも気兼ねのない生き方をすることになったのだ。
三流新聞の求職欄に、次のような広告を出した。
「命うります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密一切守り、決して迷惑はおかけしません」
そしてアパートの住所をつけておき、自室のドアには、
「ライフ・フォア・セイル 山田羽仁男」
と洒落たレタリングをした紙を貼った。』

次から次へと、買い手が現れ、危険な目に遭いますが、不思議と命を長らえ、おまけに、一財産まで築いてしまいます。さて、そうなると、人間は、命が惜しくなってくるのが人情です。ここまでくると、すでに、三島純文学ではなく、ややコミカルなエンタメ小説になってきました。

重いと思っていたら、ふたを開けたら、昨今、流行のライトノベルでした。三島由紀夫ライトノベル。年末年始休暇のおすすめです。

それでは、皆様、よいお年をお迎え下さい。