「葉桜の季節に君を想うということ」

tetu-eng2016-01-10

「葉桜の季節に君を想うということ」
歌野 晶午
文春文庫
2008年4月15日第13刷

今年の2月で、13歳の誕生日を迎える相棒は、最近、寝てばかりです。人間で換算すると70歳前後とのこと。いつの間にか、ぼくよりお爺ちゃんになってしまいました。これから、1年に4歳、歳をとるそうです。頑張れ、相棒。父ちゃんより、早く死ぬのは、親不孝だぞ。

何てことを思いながら、今年、最初の「読書雑感」は、今でも、ミステリー小説として、人気の高い「葉桜の季節に君を想うということ」です。この本は、単行本も文庫本も、蔵書として所有していますが、何故か、読んでいなかったのです。

その理由は、巻頭から、いきなりセックスシーンから始まっているため、エロチックな小説が好きではない、シャイなぼくは、何となく避けていたのですね。

『射精したあとは動きたくない。相手の体に覆いかぶさったまま、押し寄せてくる眠気を素直に受け入れたい。
射精時のエネルギー消費は、百メートルを全力疾走したのと同じだそうだ。』

それでも、紀伊国屋では、平積みされているので、まだ、まだ、人気があるのだと思い、文庫本を読み始めたら、止まらない、止まらない、真冬の嵐のように、ハリケーン、ハリケーン
エロチックな表現は、巻頭だけで、あとは、読み進むにつれて、ミステリー小説というより、なんと、恋愛小説じゃないですか?しかも、青春小説と見せかけて、老いらくの恋愛小説に早変わり、まったく、読者は、完全に著者に翻弄されたようなものです。

主人公は、元私立探偵の成瀬将虎。年齢は、小説の中では、20歳から70歳まで。成瀬は、体力維持のため通っているフィットネスクラブ(そもそも、体力維持のためのフィットネスクラブが、初めから怪しかった?)で、同じクラブに通っている愛子さんから、お爺さんの死因(車でのひきに逃げ)について、不可解な点があるので、調査して欲しいとの依頼を受けます」。
(こっそと、教えますがお爺さんとは、祖父ではなく、愛子さんの旦那)

そこには、健康商品を売りつけるための「蓬莱倶楽部」という組織が絡んでいることを突き止めますが、さらに、成瀬が電車への飛び込み自殺から救い出した「麻宮さくら」という女性も関わりを持っています。

果たして、成瀬は、事故の真相を突き止めることができるのか、そして、謎の女「麻宮さくら」とのの関係は・・・・・・!

まあ、小説ですから事故の真相は突き止められます。問題は、「麻宮さくら」ですね。

文庫本で、480頁の長編ミステリーですが、あなたは、きっと、読み始めたら、ブレーキがかからずに一気に読んでしまうでしょう。そして、もう一度、読みたくなるでしょう。

『「最近、桜の木を見たことがあるか?」
俺はぽつりと尋ねた。
「いいえ」
彼女の声が俺の体に振動として伝わり、生きていることを実感する。
「そうなんだよな、花が散った桜は世間からお払い箱なんだよ。せいぜい、葉っぱが若い5月くらいまでかな、見てもらえるのは。だがそのあとも桜は生きている。今も濃い緑の葉を茂らせている。そして、あともう少しすると紅葉だ」
「紅葉?」
「そうなんだよな、みんな、桜が紅葉すると知らないんだよ」
「赤いの?」
「赤もあれば黄色もある。楓や銀杏ほど鮮やかではなく、沈んだような色をしている。だから目に映えず、みんな見逃してしるのかもしれないが、しかし花見の頃を思い出してみろ。日本に桜の木がどれだけある。どれだけ見て、どれだけ褒め称えた。なのに花が散ったら完全に無視だ。色が汚いとけなすならまだしも、紅葉している事実すら知らない。ちょっとひどくないか。』

桜を人の一生に喩えた一節ですが、続きは、書店へどうぞ。