「望郷」

tetu-eng2016-03-13

「望郷」
湊 かなえ
文春文庫
2016年1月10日第1刷

2011.3.11から5年。いまだ、避難者は17.4万人とのこと。ぼくは、阪神大震災東日本大震災も経験していませんので、天災大国の日本に暮らしていて、幸運であると言えば、そのとおりでしょう。

現在、住んでいる場所は、山をカットしたニュータウンなので、地盤は問題ないでしょうし、周りに崖もなく、河川もなし。海からは離れているので津波の心配もないので、天災には強い土地かなと思っています。これで、マンションの施工に問題なければ、人災も心配ないでしょう。

そうは言っても、「天災は忘れた頃にやってくる」。防災への意識は、忘れてはいけません。

それにつけても、国家としての大きな課題は、原子力発電でしょう。電気料金は、震災前の4割アップにっているそうです。電力自由化で、少し、下がるでしょうが、価格も含めて、エネルギーの安定供給は、子供の頃、頻繁に停電を経験した世代としては、重要です。・・・が、原子力発電所の存在するリスクの大きさは、5年前、いや今も、経験しています。

ズバリ、ぼくは、原子力は、なるべく早く、廃炉にするべきだと思います。原子力のない社会を、早く、創造するべきでしょう。日本人は、それができると信じています。メリット・デメリットをあげつらえばキリがありません。日本のトップの英断で決するのみです。

久しぶりの時事ネタが、長くなりました。それでは、本題の「読書雑感」です。

『白綱島市は今年で市政五十五年を迎えた。日本には数多くの島があるが、一島一市で成り立っているのは、全国でこの白綱島ただ一つである。市発発足時の人口は約四万人。造船業が盛んで、鳩や風船が飛び、鼓笛隊のパレードが行われる賑やかな進水式が、四十年前の全盛期には毎週のようにおこなわれていた。
三十年前には本土と結ぶ橋が架かり、「瀬戸内のシチリア島」というキャッチコピーのもと、観光客がたくさん訪れた。』

小説の舞台は、この白綱島。どこかで訊いたような話ですが、間違いなく「因島」がモデルであることは確信しました。筆者の「湊かなえ」さんは、因島出身の人気作家ですし、ぼくも、本土側の文学の薫り高い尾道市に単身赴任していたので、すぐに、判りました。

小説は、推理小説という帯書きですが、テーマは、過疎化した地方の人たちの「暮らしへの葛藤」です。とくに、中学生、高校生の若い世代が、モチーフになっています。ミステリーには、都会が似合うと思っていましたが、湊さんは、みごとに田舎の閉塞感が生み出す人間関係をミステリーに仕上げています。

時間短縮ばかりがもてはやされるのは、何年経っても変わりません。国土の均衡ある発展の名の下に、新幹線を作り、高速道路を造って、やれ、東京まで何時間で行けるようになった。その一方では、地方創生などと地方の活性化を唱える。まったく、ベクトルが、逆だと思う。

東京、千葉、神奈川、埼玉に日本の人口の四分の一が集中しているらしい。原発問題と地方の過疎化の問題も、日本の未来にとって、大変な課題ですね。まあ、ぼくが、生きているうちに、そういった課題が解決するとは思えませんが、今の子供たちのために、すこしでも、ベターな国になればいいですね。