「ひなた」

tetu-eng2016-03-20

「ひなた」
吉田 修一
光文社文庫
2010年10月20日第6刷

先週の日曜日のこと。いつものとおり、二人と一匹の散歩の途中です。近くの公園と歩道の段差(歩道との高低差約1m)の上を、リードを離して、相棒を歩かせていたところ、突然、相棒が左胴体を下にして、落っこちてしまいました。すぐに、抱き上げましたが、左前足を打撲したようで、やや、歩き方がぎこちない様子です。

すぐに、病院に連れて行きましたが、特に、異常はなし。「もう、還暦を過ぎていますので、無理はさせないように」とのことでした、って、それは、ぼくも同じですね。無理させて、ごめんね。相棒。

小説のタイトル、「ひなた」とは、小説の舞台である文京区小日向町の「ひなた」、そして、主人公たちが暮らす家の物干し台の「ひなた」、さらに、主人公たちの日常の温かさの「ひなた」、そういった意味でしょう。

『地下鉄丸ノ内線茗荷谷駅を出ると、線路沿いにくねった細い坂道を降りる。坂道に入ったとたんに、駅のある春日通り沿いの賑やかさがすっと消える。ちょうど通り沿いに林立した高層マンションが城壁となり、その裏側というか、内部にある小日向という町を何かから守っているように見える。』

余談ですが、茗荷谷の駅から春日通りを北上して不忍通りを右折、そこから、ものの200mも歩けば地下鉄有楽町線護国寺の駅です、先々週、東京への出張のときに立ち寄った護国寺はそこにあります。ちょうど、丸ノ内線有楽町線に挟まれた町が小日向町、そこに都会の喧噪から守られた住宅街があるとは、ビックリポンです。

もともと、拓殖大学お茶の水女子大、跡見学園などの学校施設があり、そのキャンパスを含めた学園町となっているのかもしれません。近くの小石川、目白などを含めて、ブラブラと町歩きをしてみたい場所ですね。

さて、小日向の大路家には、父・母、そして長男夫婦の大路浩一・桂子、次男の大路尚純が暮らしています。もう一人の主人公は、尚純の恋人新堂レイ。

ストーリーは、春夏秋冬に別れており、主人公が新堂レイ、大路尚純、大路桂子、大路浩一の順番で入れ替わる構成になっています。ちょっと珍しい、吉田修一ならではの構成ですね。

新堂レイは、大手アパレルメーカーの新入社員。大路尚純は、就活中?の大学生。大路桂子は広告代理店の社員。大路浩一は、信用金庫に勤めながらの劇団員。この4人の家族を中心として、それぞれが関わり合いを持ちながら、また、それぞれの悩みを抱えながら、日常を生活していく、そんな物語を平易に描いている家族小説です。

『春
新堂レイの春
なんでこう嫌みなくらいに、尚純には女のコの部屋が似合うんだろう。
大路尚純の春
なんでこう嫌みなくらいに、うちの両親は声がでかいのだろう。
大路桂子の春
なんでこう嫌みなくらいに、浩一の寝顔は魅力的なのだろう。
大路浩一の春
なんでこう嫌みなくらいに、田辺は楽しそうに笑うのだろう。』

このパターンで、書き出しが揃えられているのに、読み手は、気づくだろうか?小説は、ストーリーを楽しむと同時に、作家の技法を楽しむのも、一つの小説のおもしろさだと思います。