「海のある奈良に死す」

tetu-eng2016-04-03

「海のある奈良に死す」
有栖川 有栖
双葉文庫
2000年5月20日第1刷

4月1日、新事業年度の始まりです。

ぼくの勤務する会社で、新規採用社員の入社式があり、社内に、何となく、爽やかな春の風が感じられました。

出勤のときも、フレッシュマンらしき若者が、やや緊張した面持ちで歩いているのを見かけました。もう、35年・・・6年?前、老サラリーマンは、すっかり、その当時の心持ちを忘れてしまいました。しかし、「Old soldiers never die!」です。「they simply fade away!」。いやいや、消え去るのは、もう少し、先です。まだまだ、消え去るわけにはまいりませぬ。と、フレッシュマンをにらみつける「ぼく」が、満開の桜の下に取り残されていました。

推理作家・有栖川有栖と犯罪学者・火村英生のコンビが、謎の殺人事件の解明に乗り出す、有栖川有栖推理小説です。

ややっころしいのは、この小説の作家の有栖川有栖が、小説の中でも、おなじ推理作家として、登場することです。有栖川有栖さんの推理小説は、はじめて読みましたが、このパターンらしいです。ホームズが、火村英生で、ワトソンが、有栖川有栖といったイメージですね。

『犯罪を友としたのは火村の自由な選択の結果である。恩師に見込まれて研究者の道にひっぱられたわけではないし、まして医者によくあるように親の跡を継いだわけでもない。
彼は犯罪に関する古今東西の文献を渉猟し、日々、新聞で報じられる殺伐たる事件に目を走らせ、刑事事件を傍聴し、塀の中の犯罪者と面談したり、被害者やその遺族の話を聞くために日本中どこへでも飛んでいく。もちろん、英都大学社会学助教授として教壇にも立つし、学内学外の機関誌に論文を発表している。フィールドワークの一環として警察の捜査に協力し、事件解決に貢献したこと数十回。自分が関与した事件の犯人たちの顔写真はすべてアルバムに貼ってあるそうだが、誰にも絶対に見せようとはしない。』

この小説のキーワードは、被害者が旅行に行く前に言い残した言葉「海のある奈良」です。奈良県は、海なし県、そして、被害者の死体が発見されたのが、福井県若狭湾に面した小浜。火村と有栖川は、早速、小浜に向かいます。

『「若狭の「お水送り」って知ってるか?
「詳しいことは知らないけれど、聞いたことはある」火村は前方の路面を見たまま答えた。
「奈良へ「お水取り」の水を送る行事あろ?」
「そう。若狭の「お水送り」と呼ぶけど、小浜から送るんや。遠敷の神宮寺から送った水を奈良の東大寺二月堂で汲み上げる。ここでも小浜はちゃんと奈良と結びつきを持っている」』

推理小説は、旅付きの小説がいいね。いろいろと、行ったことにない土地の、いろいろな情報を知ることができます。細君に、「お水送り」って知ってるといったら、「ああ、若狭の神宮寺ね!」って言われて、がっくり。「若いとき、行ったことある」だって、また、がっくり。ぼくの行動範囲の狭さを嘆くのみです。ぼくは、行動範囲の狭さを小説を読んで補っているみたいです。