「機関車先生」

tetu-eng2016-07-24

機関車先生
伊集院 静
集英社文庫
2010年6月6日第8刷

20日に、平成28年度上半期の芥川賞直木賞の発表がありました。

話題の又吉さんの「火花」から1年が過ぎましたが、又吉フィーバーは衰えませんね。おかげで、同時に受賞した羽田さんの「スクラップアンドビルド」も便乗フィーバーですが、その次の受賞者の露出は、ほとんどありませんね。人の運というものは、不可思議なものです。

今回の受賞者でビックリしたのは、直木賞の萩原浩さんですが、ぼくは、とっくに受賞していると思っていました。5回目のノミネートだったらしいです。ぼくは、萩原さんの作風が好きで、何冊か読んでいます。どんな作風かといえば、嫌みのない柔らかい雰囲気の小説ですね。要するに、読んでいて疲れないということでしょうか?

そういえば、テレビドラマで「ふつうが一番〜作家・藤沢周平 父の一言〜」が放映されましたが、藤沢周平直木賞に5回ぐらいノミネートされて、やっとの受賞だったらしいです。そのときの喜びは格別のものだったらしいです。
作家商売は、芥川賞直木賞にノミネートされるだけでも大変なことでしょうが、さらに、受賞ということとなると、力量だけではなく人の運という不可思議な作用も関わるものじゃないでしょうか?

伊集院静も、20年以上前に直木賞を受賞して、さらに、文壇の第一線で活躍する人気作家の一人です。「機関車先生」は、児童文学のジャンルに入るのではないでしょうか?舞台は、瀬戸内海に浮かぶ「葉名島」という小さな島です。この島の7人の生徒しかいない小学校に、新しい先生が赴任してきました。

『「来たぞ」
満が廊下側の窓から首を引っ込めて席に戻った。ヨウは目が覚めたように背筋を伸ばして膝の上に手を置いた。
ガラガラと戸が開いた。
教室に入ってきた校長先生の顔が子供のようにニコニコしていた。
「どうぞ吉岡先生」
声がいつもよりかん高かった。皆が戸の方を息をのんで見つめた。返事はなかった。しかし鴨居にぶっつかりそうなほど背の高い先生があらわれると、七人の生徒は身体のおおきいのに目を丸くした。』

生徒たちは、大きな先生に「機関車先生」というあだ名をつけました。「機関車先生」は、大きくて、強くて、やさしい先生でした。でも、先生は、子供の時に病気で声を失っていました。子供たちとのコミュニケーションは、筆談ですが、「機関車先生」と子供たちにとっては、そのことは障害ではありません。

機関車先生」と子供たちが、声がなくても、心をかよわせる物語です。そこには、ほのぼのとした温かい空気が流れています。

余談ですが、この小説は、柴田錬三郎賞を受賞しています。そういえば、「とと姉ちゃん」の五反田一郎(及川光博)のモデルは、柴田錬三郎らしいです。柴田錬三郎といえば、柴練(しばれん)という通称で親しまれた「眠狂四郎シリーズ」の作者ですが、若い人は、知らないかもね。