「サウスバンド 上・下」 

tetu-eng2016-11-20

「サウスバンド 上・下」
奥田 英朗
角川文庫
平成19年8月31日第初版発行

おもしろくない。

最近、面白くないことが多い。特に、会社がおもしろくない。まあ、会社なんて、そもそも、面白くないものです。家族を養い、日々の糧を得るために、会社で働いている。面白いはずがない。でも、そんな会社に40年、お世話になっているのは、心痛いものです。

歳をとると我が儘になるのか、自分の意に沿わぬ事があると、まことに面白くないのです。だからといって、「坊ちゃん」じゃあるまし、癇癪ばかり起こしていては、それもまずいことになります。

イラッとすると、深呼吸して、やり過ごす。そんな業も、年の功でしょうか。そうすると、ストレスがたまります。ぼくは、どうも脳の中で、雑念が必要以上にうずまく性格かもしれません。それも、よろしくない。

『おもしろき こともなき世を おもしろく 棲みなすものは 心なりけり』(高杉晋作辞世の句)

おもしろくない句です。東行高杉晋作らしくない。東行とは、西行をもじったらしいです。司馬遼太郎の「世に棲む日々」によると、上の句を書いて、晋作は、筆を落としたらしいです。そのあと、野村望東尼が、下の句を継いだらしいです。晋作、それを見て、にやりと笑って、事切れたらしいです。ほんまかいな?

面白くもない余談でしたが、「サウスバンド 上・下」の読書雑感に移ります。

上巻は、東京編、下巻は、沖縄編。とにかく、面白くない会社に通勤しながら、面白い小説を読んでいます。

『「理想社会の追求さ。みなが平等で、豊かで、戦争のない社会を実現したいんだ。二郎君はそういうの、いいと思わないかい?」
「いいと思う」
「だろう?そのためにはプロレタリア革命を起こさなきゃなんないのさ」
「すべての労働者が立ち上がって、ブルジョアを殲滅するのさ」
「ふうん」父も言っていた言葉だ。プロレタリアとブルジョア。「ねえ、アキラおじさん。おとうさんも同じグループなの?」
「昔はね。ぼくが入党したころはもういなくて、大学では伝説の闘志として知られていたよ」』

上原二郎のお父さんは、どうも、大学紛争時代の元過激派だったようです。しかも、かなりの。いつもは、ブラブラしていますが、とにかく国家権力が大嫌いです。税務署、社会保険事務所、公立学校の先生さへ、ことごとく蹴散らします。そんなハチャメチャなお父さんですが、どことなく憎めないキャラクターの持ち主です。家族は、お母さん(ジャンヌダルクと呼ばれた元闘志)、お姉ちゃん(お父さんを嫌っているが、沖縄では、変心)、妹(二郎とワンセットの兄妹)の5人家族です。

下巻の沖縄編では、家族そろって、沖縄に移住。東京での一暴れのあと、沖縄で平穏に暮らすかと思えば、もっと、大変なことになります。愛すべきお父さんとお母さん。こんな二人が居たら、こりゃ、面白いよね。

『「やっと出てきたか。この資本家の手先どもが。官には一切手加減しないぞ」
父にひるむ気配はない。むしろ愉快そうに大きく口を開け、警官を威嚇した。
「武器を捨てなさい。勝ち目はないぞ」
「官が驕るな。やってみないでわかるか!」
父がすり足で前に出て、素早く角材を振り下ろす。新垣巡査の刺股があっけなく地面に落ちた。
公務執行妨害!検挙!検挙!」』

そのむかし、白山通りを埋め尽くす学生に対し、第八機動隊が放水をして、行く手を阻む。なんて、光景を見ましたが、今は、そんな元気な学生さんは居ませんよね。面白くないね!