「夏美のホタル」

tetu-eng2016-11-27

「夏美のホタル」 
森沢 明夫
角川文庫
平成28年5月30日7版発行

先週、会社がおもしろくないって、書いたら、心配して?、わざわざ、会社に来てくれた友人がいました。ありがたいものです。・・・・ホントの用事は、別にありましたが・・・・・。

さて、今年も、年賀状の制作、印刷の季節になりました。

23日(水)勤労感謝の日に、誰も、勤労を感謝してくれないので、いそいそと、年賀状の制作に取りかかりました。毎年、「筆まめ」のお世話になり、通信欄を自主制作しています。ぼくの年賀状の特徴は、拙い水彩の「橋の絵」をプリントしていることですが、市販の絵はがきだと思っている友人もチラホラ。

今年の絵の出来映えは、あまり感心できません。しかし、その方が素人ぽっくて、逆に、いいかもしれないと思い、描き直しなしの一発勝負で、少々、雑な絵になりましが、勘弁して下さい。12月になったら、宛名書きを始めます。宛名を書きながら、「あ〜、○○さん、どうしているかな?」と感慨に耽るのも、年末の恒例ですね。

森沢明夫さんの小説を読むのは3冊目。

「あなたへ」は、高倉健の最後の主演映画の原作本。「虹の岬の喫茶店」は、吉永小百合の主演映画の原作本。いずれも、何度か、まぶたを熱くする・・・いやいや、電車の中でも、涙が頬を伝うほどの「泣かせ小説」です。

余談ですが、「泣かせ小説」といえば、NO1、「妻と私」江藤淳、NO2、「もう、君はいないのか」城山三郎。いずれも、妻に先立たれた作家の実話ですが、こいつは、泣けますね。まだ、読んでない方は、是非、読んでみて下さい。読むときは、涙と鼻水で、ぐちゃぐちゃになるので、ティシュを横に置いておくこと。

『薄闇のなか、三百六十度、ぼくと夏美は緑色に明滅する光に囲まれていたのだ。清涼な川風と、心地よいせせらぎの音、森と水の清々しくも甘い匂い。
そして、蛍、蛍、蛍。
「すげえなぁ・・・・」
「信じられないよ、これ。夢みたい」
ぼくは目の前にふわふわと飛んできた蛍をそっとつかまえた。包み込んだ両手の指の隙間から緑色のやわらかな光がじんわりと漏れる。』

ぼく(写真家志望の大学生、相羽慎吾)と彼女の夏美は、卒業制作のモチーフ探しに出かけた山里で「たけ屋」という古びたよろず屋を見つけました。「たけ屋」は、ヤスばあちゃんと身体の不自由な地蔵さんの母子2人ぐらしでした。
ぼくと夏美は、夏休みをこの「たけ屋」で暮らすことになり、山里の自然を楽しみます。地蔵さんからは、川遊びなど山里のおもしろさを教えてもらいます。ヤスばあちゃんには、山菜料理などの田舎料理を教えてもらいます。そして、ぼくは、「たけ屋」で暮らす日々をモチーフにして、シャッターを切りまくります。

『つい半月前まで、鮮やかな紅や黄色で山里を彩っていた山々は、すでに色彩を失っていた。
足元の草花たちも、みな一斉に枯れてしまった。
春から秋にかけてあれほどまでに謳歌していた無数の生命たちも、冬という季節の圧力に負けて、まとめて地中へと押し込まれてしまったようで、ただでさえ淋しかった山里が、いっそう閑散としてしまった気がした。
しかも、冬の夕暮れは無慈悲なまでに早かった。』

地蔵さんの突然の死。あんなに楽しかった日々が、暮色を帯びてきます。一人っきりになったヤスばあちゃんは、みるみる小さくなっていくのです。