「むらさきのスカートの女」

「むらさきのスカートの女」
今村夏子
文藝春秋9月特別号

f:id:tetu-eng:20190825151052j:plain

先週のこと。お盆過ぎに「墓参り」のため、帰省してきました。実家があるわけではないので、帰省というのは、ちょっと変かな。まあ、18歳で上京して、約50年間・・・えっ、もう半世紀ですね・・・少なくとも年に2回は往復しています。どれだけ、国鉄、JRに貢献しているか。計算してみると、往復3万円として、年6万円かけることの50年で、約300万円か。家族で往復していたことも加算すると、約500万円。

ふう~。

それはそれとして、最近、ビックリすることは、新幹線に外人客が多いいってこと。インバウンドって言うのですか。行きの列車は、何と、ぼくの乗車した号車の80%は外人さん。ちょうど、ツアーの御一行様だったのか?ぼくの座席の横も、大きな白人の20代の女性。ずっと、スマホで、遊んでいましたが、それはそれで、・・・。

みなさん、広島で下車しました。ぼくも、広島で乗り換えなのですが、広島駅のホームも、外人さんだらけ。帰りは、ちょうど姫路に停車する列車だったのですが、ここからも、大勢の外人さんが乗車してきました。広島は、宮島。姫路は、お城。いずれも、世界遺産ですね。世界遺産の威力を見せつけられました。ちなみに、外人さんは、ほとんどが白人さんでした。

この時期、毎年、芥川賞の発表があり、文藝春秋9月特別号に掲載されるのが恒例です。そして、ぼくは、これを帰省列車で読むのも恒例です。「むらさきのスカートの女」は、久しぶりに読みやすい作品で、横に座っていた外人の若い娘さんを気にしながらも、行きの列車で一気呵成に読み切りました。

『うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいる。いつも紫色のスカートを穿いているのでそう呼ばれている。
わたしはいつも、パンを選ぶふりをしてむらさきのスカートの女の容姿を観察している。観察するたびに誰かに似ているなと思う。誰だろう。
うちの近所の公園には、「むらさきのスカートの女専用シート」と名付けられたベンチまである。南側に三つ並んでいるうちの、一番奥のベンチがそれだ。』

 むらさきのスカートの女は、ホテルの清掃係として就職します。わたしが、ベンチの上に置いた就職情報誌を見て。わたしは、同じホテルで働いています。主人公は、むらさきのスカートの女のようですが、ときどき、「わたし」が現れます。そのことが、物語をミステリアスにして、読者は、いったい、いつ「わたし」が、何を仕掛けてくるのかという思いをもちながら、読み進んでいきます。

「わたし」は、むらさきのスカートの女に、何度か声をかけようとしますが、いつも、チャンスを逃します。ただ、単に友人になりたいだけなのか?むらさきのスカートの女は、ホテルの備品を持ち帰ったり、主任と不倫をしたり、そのことを、「わたし」が、いつも観察しています。そして、小説の終盤に「事件」が起こり、一気に結末を迎えます。このスピード感が、この小説の醍醐味でしょうか。

著者の今村夏子さんは、ホテルやJRで清掃係の仕事をしていたそうです。道理で、いろいろ裏事情にも詳しいのですね。この小説、ソフトなミステリーとも言えそうです。