「リーチ先生」

「リーチ先生」
原田マハ
集英社文庫
2019年6月30日第1刷

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漸く、というか、いつの間にか、というか、夏の蝉の声から秋の虫の声に変ってきました。

一雨ごとに、涼しくなって、初秋へと季節は移っていきます。今年も、「暑さ寒さも彼岸まで」、ですね。夜、クーラーを点けずに寝られるのは、ありがたいです。窓を開けて、自然の風にカーテンが揺れ、僅かに冷気がベッドのうえに流れてくる。今からが、1年で一番、過ごしやすい季節です。花粉症もないしね。

さて、久しぶりの「読書雑感」です。「リーチ先生」は、文庫本で600ページの小説です。読み始めて1月近く読了までかかりましたが、決して、退屈させる小説ではありません。ぼくが、途中に浮気して他の本を読んだのが原因です。それは、「一切なりゆき」(樹木希林)「むらさきのスカートの女」(今村夏子)「ツバキ文具店の鎌倉案内」(小川糸)の三冊かな。これでは、ダメだということで、尾道出張のとき「こだま」で往復して、「リーチ先生」を読了しました。

本を読むには、電車の中が一番です。誰にも邪魔されないし、適当に騒音があって集中できます。とくに、新幹線「こだま」は、車中が空いていて、しかも、山陽新幹線は、昔のレールスターなので、座席が広くて楽チンです。何せ、ぼくは、時間だけは、たっぷりありますから。そういえば、以前に読んだ城山三郎の随筆(たしか「無所属の時間で生きる」だったかな?)にも同じようなことが書いてありました。

 

余談は、このくらいにして「リーチ先生」です。

リーチ先生とは、「バーナード・リーチ」。イギリスと日本の陶芸での交流を図ったイギリス人です。ぼくは、もちろん、この本を読むまで、リーチ先生のことは知りません。それどころか、陶芸という芸術の世界も、詳しくは承知していません。まあ、湯飲みに「備前焼」を使っているぐらいですか。そりゃ、やれ、有田焼、伊万里焼、信楽焼などの焼物の存在は知っていますがね。その程度です。

原田マハさんの小説は、数冊、読んでいます。この人の小説は、美術・芸術歴史小説という・・・たぶん、新しい素材の小説だと思います。原田さんは、美術館のキュレーターの経験があるので、美術・芸術の歴史に、精通しているのでしょう。といっても、小説は、フィクションです。

この小説の登場人物は、リーチ先生、高村光雲、光太郎など実在の人物です。柳宗悦(聞いたことある)、富本憲吉、濱田庄司(両氏とも聞いたことなし)、でも、両氏とも陶芸界の重鎮らしいです。しかも、両氏とも人間国宝らしいです。リーチ先生は、大正期、昭和期に、日本で、日本の芸術・陶芸家と交流し、さらに、イギリスに帰国後は、イギリスと日本の陶芸の融合を図ったらしいです。

小説ですから、架空の人物も登場します。リーチ先生の助手として、日本、イギリスでリーチ先生と陶芸の道を歩む「名もなき陶芸家の沖亀乃介」、そして、その息子の高市。たぶん、亀乃介のイギリスでの恋人シンシアも架空でしょう。とにかく、陶芸の近代史上の人物と陶芸の史実、そして、架空の人物、フィクションが、織り交ざって「リーチ先生」という物語が出来上がっています。

読んでいる途中から、ぼくは、近くの陶芸教室を捜しましたね。とにかく、感化されやすいぼくでなくても、この本を読んだら、「あれ、ちょっと、陶芸をやってみようかな」って。あなたも思うに違いありません。