「蛍川」

「蛍川」
宮本 輝
筑摩書房
1978年3月5日第4刷発行

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本箱から引っ張り出した「蛍川」。40年数年ぶりに再読しました。最近、本屋をうろうろしても、こいつは読んでみたいと思う本がなくて、困っています。そこで、少し昔の本を読んでみようと思って、「蛍川」。


以前なら、夏目漱石の小説に回帰するのですが、文豪本にも、触手が動かなくて、こりゃ、読書倦怠期ですかね。世の中、本は腐るほどあるのに、好奇心がなくなってしまって、新しい作家さんにチャレンジするのも鬱とおしくなっているのかも?うむ、やはり、症状は、読書倦怠期。


余談ですが、世の中、右を向いても、左を見ても、「コロナ!コロナ!」。トヨタの車じゃあるまいし(もうそんな車種はないか)、または、ストーブのメーカー(我が家の乾燥機は「コロナ」製)じゃあるまし。なんて、駄洒落ている場合ではありません。


ぼくの僅かな投資株は暴落状態。非常事態宣言です。この1~2週間が正念場らしいですが、その根拠って何なんでしょうか?小中高校は、休学にするらしいですし、会社もフレックスや、テレワークなどで、とにかく、人ごみの中にはいかないことが肝要とのこと。


新聞に専門家会議のメンバーの座談会が掲載されていましたが、日本人全員が感染してもおかしくないほどの感染力らしいです。さらに、感染しても8割が軽症らしいです。したがって、人の移動を制限する必要はないとのことでしたが・・・・。


ぼくのように無所属の人間は、年中、在宅暇つぶしですが、現役で働いている人、お勉強をしている青少年は、何かと、困っているでしょう。何か、お役に立ちたいですが、チョロチョロしないで、せめて、感染しないで、医療関係者にご迷惑をかけないのが、一番の貢献かもしれません。


さて、「蛍川」です。1978年の芥川賞受賞作品です。宮本輝は、前年、「泥の河」で太宰治賞を受賞して、翌年に「道頓堀川」を上梓しています。三つの作品を宮本輝の三川(さんせん)と当時言っていたような記憶があります。


宮本輝は、神戸出身で大阪の大学を卒業しているので、「泥の河」(舞台は「安治川」)と「道頓堀川」と、大阪の川を舞台にした小説です。しかし、「蛍川」は、富山の「いたち川」(実在するか否かは調べていません。)を舞台にしているのですが、これも、宮本さんが小学校時代を過ごした街です。この街で、父親は事業に失敗したらしいです。


いわば、「蛍川」は、宮本さんの小学校時代の私小説かもしれません。


昭和37年、竜夫は中学2年生。父の重竜と母の千代との間の遅い子でした。父は、事業に失敗して、重篤な病気でなくなりますが、千代と竜夫は、残った借金の整理とその後の生計のため、富山に残るか、叔父のいる大阪に転居するかを迫られます。そんなとき、近くの老爺銀蔵に連れられてホタルを探しに行きます。

 

『梟の声が頭上から聞こえた。千代の心にその瞬間ある考えが浮かんだ。人里離れた夜道をここからさらに千五百歩進んで、もし蛍が出なかったら、引き返そう。そして自分もまた富山に残り、賄い婦をして息子を育てていこう。だがもし蛍の大群に遭遇したら、その時は喜三郎の言うように大阪に行こう。』

 


中学生にありそうなこと、進学するかどうか?気になる女子?中学2年生の少年竜夫の心の揺らめき、そこに、突然の父親の死・・・蛍に、行く末を占う母・・・。昭和の小説です。だから、懐かしさを感じます。