「いのちの停車場」

「いのちの停車場」

南 杏子

幻冬舎文庫

令和3年4月10日初版

 f:id:tetu-eng:20210530175128j:plain

 

西脇Y字路・・・何故、横尾忠則さんは「Y字路」に魅せられたのか?勝手な想像ですが、右に行くか、左に行くか。Y字路は人生の象徴ではないでしょうか?発見しました。ゴッホの「オヴェールの教会」もY字路ですね。

 

兵庫のY字路を募集しています。

 

さて、今週は、余談なしで、読書雑感です。

 

と、いうのは、今朝、「いのちの停車場」を読了しました。この感動を、ストレートにお伝えするためです。とにかく、泣きました。六章の短編連載ですが、ほぼ、毎章で泣きが入りました。

 

ぼくは、医療ものは、あまり好んで読みませんが、この作品、二つの理由で、チョイスしました。

 

その一、作者の南杏子さん、ちょっと、異色の作家。

 

NHK「あさイチ」のプレミアムトークにゲストで出演。徳島出身。日本女子大家政学部卒業後、出版社勤務を経て、夫の留学でイギリスに転居。帰国後、一念発起して、東海大学医学部に学士入学。終末期病院に勤務しながら、カルチャーセンターの小説教室で小説の執筆を勉強。すでに、幻冬舎から2冊を上梓。「いのちの停車場」は、三冊目。とのこと。

 

その二、吉永小百合主演映画の原作。医師役は、初めてとのこと。

 

76歳で、いまだ、若々しい、小百合さん。62歳の主人公の医師役です。122本目の映画出演。まさに、日本を代表する俳優です。

 

城北医科大学救急救命センター副センター長白石咲和子(62歳)。故郷の金沢に戻って、八十七歳で一人暮らしの父と同居、父の友人仙川が開業している「まほろば診療所」の訪問診療医師となります。

 

『救急医療の現場で身につけた技術があれば、何ということはない などと思っていた自分がひどく恥ずかしかった。

仙川は、くしゃとした笑顔になった。

「咲和ちゃんの腕はこれからうんと役に立つよ。ただもう、いいトシなんだし、疲れるのはしょうがないよ」

「はい、そうは言っても・・・・」

「不可抗力だよ。なにしろグローバルな気候変動のせいで、ヒラメやカレイといったカレイ科目の魚類は、2100年までに漁獲量が20%も減るというから」

「は?」

「専門家は、それを「カレイ減少」と呼ぶ」』

 と、コミカルな展開もあるが、在宅診療は、命との攻防戦。終末期を、病院ではなく在宅で、本人も家族も、いかに心静かに過ごすことができるか。その手助けをするのが訪問診療医師。

 

咲和子は、患者の家族に入念な教育を行います。教育とは、死のプロセスの説明、いわば「死のレクチャー」。

 

『「死は決して怖いものではありません。きょうはご主人に、お別れの際に見られる奥様の身体の変化や、今後の状態について詳しくお話しします。これからのこと・・・死を学ぶ授業と思ってください」』

 

「死のレクチャー」を受講したい方は、是非、この小説を読んでみてください。現役医師だけに、わかりやすく、丁寧に、説明しています。一方、訪問診療のかたわら、父の終末も近づいてきます。医師として娘として、肉親の最後に、どう向き合うか。

 

こりゃ、現在公開中の映画も、是非、見てみたいと思います。が、うむ、シアターで、おじいさんが、ボロボロ涙を流すのは、頂けませんね。でも、きっと、そうなります。