「彼岸花が咲く島」(165回芥川賞受賞作)

彼岸花が咲く島」(165回芥川賞受賞作)

李 琴峰(り ことみ)

2021年9月号

文藝春秋

 

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須磨海岸 今年の夏も、海水浴はご法度。コロナが恨めしい夏休みは、もう、終わりです。来年は、水着姿で賑わうようになる・・なれる・・なろう。といっても、ぼくは、海で泳ぐ年齢は、とうに過ぎてしまいました。

 

今週は、余談なしで、読書雑感に入場します。なぜ?久しぶりに面白い芥川賞作品に出合ったからです。

 

それは、165回芥川賞受賞の2作目。「彼岸花が咲く島」

 

作者は、李琴峰(りことみ)さん。日本語を母国語としない芥川賞作家は、2人目だそうです。もう一人は、「時の滲む朝」の楊逸(ヤンイー)さん。在留中国人の女性です。

 

この時の直木賞井上荒野さんの「切羽へ」は、読んだ記憶があるのですが、「時の滲む朝」は記憶にありません。ブログの記録にもありません。なぜ?

 

まあ、過去のことはいいとして、李琴峰(りことみ)さんは、台湾の出身で、早稲田大学に留学。日本で就職して、日本で作家としてデビューしたそうです。これまでの作品も、すべて日本語での執筆とのことです。

 

『砂浜に倒れている少女は、炙られているようでもあり、炎の触手に囲われて大事に守られているようでもあった。』

 

少女は、島の海岸に打ち上げられていた。その海岸には、赤一面の彼岸花が咲き乱れていた。・・・なるほど、「炎の触手」とは、彼岸花の「毒々しく長い蕊」のことです。小説の書き出しです。

 

少女を見つけたのは、游娜(ヨナ)。少女は、ヨナと同じ年ぐらい。少女は、記憶を失っていたので、ヨナの家で、親の晴嵐(セラ)と看病する。そして、宇実(ウミ)と呼ばれるようになった。

 

もう、気づいていると思いますが、名前が妙です。そう、この小説のジャンルは、と問われれば、ファンタジー小説です。そして、青春・冒険小説です。と、ぼくは、思っています。

 

大海原にポツンと浮かぶこの島は、架空の島ですが、イメージは、沖縄などの南の島でしょう。言葉は、ちょっと変わった<ニホン語>、でも、公用語は、<女語>。

 

そう、島の指導者は、<ノロ>と呼ばれ、すべて女性です。なぜ、すべて女性かは、この島の歴史に意味がありますが、その歴史は、<ノロ>以外は、知ることはでません。

 

元気を回復したウミは、ヨナとヨナの友達の拓慈(タツ・男)と、この島での生活に慣れていきます。そして、やがて、ヨナとともに<ノロ>になることを目指します。

 

『「私は、ノロになる。そして<島>の歴史を継承する。」

ノロになって、<島>規則を変えるの。』

 

男社会の世界を逆転させて女社会という<島>、ファンタジーの枠の中で、ジェンダー問題だけではなく、もっと、「おおきなもの」を伝えようとしている。それはなにか?

 

おって、タイワンやチュウゴクなどとの交易の下りがあるのですが、これは、妙に、リアルさがでてきて、いまの政治情勢をにおわせているのは、残念だったと思います。