「三匹のおっさん」

tetu-eng2012-05-04

「三匹のおっさん」
有川 浩
文春文庫
2012年3月10日第1刷
695円+税

3匹のおっさん。1匹目は、清田清一。地方ゼネコンの定年退職の日を迎え、父から引き継いだ剣道場は最後の弟子が辞めて、これからは、駅の近くのアミューズメントパークの嘱託として、暢気に老後を過ごすことになっている。2匹目は、立花重雄。「酔いどれ鯨」という看板を上げている近所の赤提灯。清一とは子供の頃からの腐れ縁で、「酔いどれ鯨」の前店主(今は、息子に代替わり)。清一は、剣道歴が長いが、重雄は、柔道歴が長い。そして、3匹目は、有村則夫。清一や重雄とは違って、背の高いひょろっとした体格、もちろん、昔から荒事は得意ではない。その代わり頭の出来はよく、「三匹の悪ガキ」の中で彼が参謀役である。

『「相談なんだけどよ」
 重雄のその切り出し方と表情は遠い昔に覚えがある。子供の頃、何かろくでもないイタズラを思いついて「三匹の悪ガキ」内で披露するときだ。
「俺も一応赤いちゃんちゃんこは着たけどよ。だからってまだジジイの箱に蹴っぽり込まれたくはねえなあと思ってよ」
 それは正に清一も思っていたことだった。
「まだまだおっさんの箱に入っときたい俺としてはだな、暇な時間をただ流してちゃなまっていくだけだと思うわけだ。そこでよ」
「『三匹の悪ガキ』のなれの果ての『三匹のおっさん』どもで、夜回り役はぴったりじゃねえか」』

 という経緯(いきさつ)で、「三匹のおっさん」の私設自警団が発足した。早速、夜回りを始めた「三匹のおっさん」の大活躍が、この小説のストーリーです。小さな町で起こる事件。「かつあげ」「痴漢」「結婚詐欺」「動物虐待」「キャッチセールス」など、読み切り短編で、事件を解決していく。勧善懲悪。町の水戸黄門みたいな三人組です。三匹の他に、ほんのりと花を添えるのが、則夫の高校二年生の娘の早苗ちゃんと清一の高校二年生の孫の祐希との淡い交際です。清一と祐希の掛け合いも愉快です。

『「おい、ジーサン」
 ある週末の午後である。珍しく祐希が一階へ庭回りで訪ねてきた。清一はちょうど縁側で爪をきっていた。
「これやるよ」
 祐希は提げていた紙袋を清一に突き出した。
「何だ、急に」
 中身はえんじ色とモスグリーンを渋くメインの色に使ったチェックの長袖カッターである。
「これはちょっと俺には派手じゃないか」
「んなことねえよ。着こなしだ、着こなし。中にTシャツを着て上着代わりに羽織るんだ。ボタンは留めない、これが基本。裾をズボンから出すんだ。」
「ちょ、ちょっと待て。Tシャツをズボンに入れなかったらスースーするじゃないか」
「中にランニングでも着ろよ!」(・・・・と、ファッション談義がつづく。)』

 有川浩さんの小説は、昨年、あの映画でもヒットした「阪急電車」以来です。最近、注目の電撃小説大賞の出身の作家さんですが、「県庁おもてなし課」も読んでみたい1冊です。そして、何と、先日、「「三匹のおっさん ふたたび」が、単行本で出版。とにかく、面白い痛快活劇小説です。