参議院選挙が終わり、自民党の圧勝。政治の停滞の原因とされていた衆参両院の「ねじれ」は解消されました。実は、アメリカでも、上下院は「ねじれ」ています。二院制の国では、この現象は、珍しいことではないようです。日本では、自民党の政権が長く続いていたので、政治の世界が、この現象に習熟していなかったのではないでしょうか?兎も角、これで、政治の世界は、「安定」したので、これからは、安倍政権が、決められる政治を着々と実践することが課題となってきました。「いいワケ」は、もう、言えません。心配事は、自民党内の改革に対する意見の不一致です。
「艱難は共にすべく、富貴は共にすべからず」。簡単に言うと、苦しい時には、皆で協力して、何とかするものだが、楽な時には、それぞれ我儘を言って、仲たがいするものだということです。世の中、共通の在り様ですね。
現在放映中の月曜8時の連続ドラマ「名もなき毒」(小泉孝太郎)の原作なのですが、実は、ドラマの内容は、この本の前編である「誰か somebody」が、原作です。ドラマタイトルだけは、続編の「名もない毒」を採用しています。ずばり、ソフトなサスペンス小説ですが、宮部みゆきの真骨頂ですネ。
今多コンツエルンの会長である今多嘉親の娘婿杉村三郎は、菜穂子との結婚の条件として、勤務していた出版社をやめて、今多コンツエルンの社内報を編集発行しているグループ広報室へ転職させられた。菜穂子は、正妻の子供ではなく、三郎自身には、今多コンツエルンでの経営に関与する野心は持ち合わせていない。そう言っても、菜穂子と一人娘桃子との生活は、菜穂子にあてがわれた資産のため、身分不相応なものでした。しかし、彼は、そのことを気にはしていましたが、左程、こだわりを持つキャラでもありませんでした。
事件は二つ。一つは、連続毒殺事件の1件に杉村三郎が関わり合いを持ちます。もう1件は、グループ広報室のアルバイトの解雇を巡って、三郎が、渦中の人となります。三郎のおおらかで、おせっかいなキャラクターに好感が持てます。
『「会長は、権力というものをどうお考えですか」
義父はしばらく無言だった。紅茶のカップが空になっていたので、私は注いだ。
「空しいな」という答えが返ってきた。
「空しいですか」
「そう思わんか」
「会長にはふさわしくないお言葉に思えます」
義父はさらに、鼻で笑った。
「今多グループの総帥だからね」
「私はそう思います」
「社員たちがわけのわからん薬を盛られて、それが誰の仕業かわかっておっても、手出しができん。逃げられたら見つけることもできんのだ。それが何の権力者だ。そう思わんか」』
グループ広報室は、会長の直轄であり、会長自身が室長です。おまけに杉村三郎の義父でもあり、時折、三郎の前に現れて、三郎の心の中で「形にならず、混沌のまま留まっているものを、言葉にしてくれている」。テレビドラマでは、平幹二郎が演じていますが、この小説では、キーマン的な存在です。