「冬姫」

tetu-eng2015-02-15

「冬姫」
葉室 麟
集英社文庫
2014年12月16日第二刷
700円(税別)

織田信長の次女、冬。

武家の女は槍や刀ではなく、心の刃を研いでいくさをせねばならないのです。』

歌の文句じゃないですが、忍という字はおそろしい、心に刃を忍ばせる。なんちゃって。

さて、

織田信長正室である濃姫(人気漫画「信長協奏曲」では帰蝶(きちょう)と呼ばれています。)には、子供がいなかったと言われています。また、美濃のまむし「斎藤道三」の娘として、尾張のうつけと呼ばれた信長に輿入れした逸話などは有名ですが、その後のことは、本能寺で信長とともに亡くなったという説など不明です。

豊臣秀吉正室である通称は「ねね」。「ねね」にも子供がなく、福島政則、加藤清正などを幼少期から育てたことは有名。木下藤吉郎時代に結婚をして、藤吉郎の出世を影で支えたと言われています。「北政所」として、豊臣家を支え、秀吉亡き後も、江戸時代に「高台院」として余生を過ごしています。

徳川家康正室である築山御前は、今川義元の姪御であり、家康が、今川の人質であった松平元康時代に結婚しました。その後、桶狭間の戦い以後、今川家が没落して、徳川・織田同盟の成立から築山御前は、徳川家ではひどく冷遇されます。挙げ句の果ては、武田との内通を信長から疑われ、長男信康の切腹、築山御前の殺害と、悲運の生涯を閉じることになりました。

以上、戦国時代の大名の正室の代表選手について、僕の知っていることを書き連ねましたが、歴史は、事実を証明する証拠があって、初めて、史実となりますが、そのセグメントは、信用性も含めて、なかなか難しくもあり、また、時代によって変化もします。ましては、歴史小説に書かれていることは、あくまで、小説なので、事実と虚実が織り紡がれているということを忘れてはいけません。

当然、この「冬姫」は歴史小説です。ただし、実在の人物ですが、信長の次女かどうかは、不明ですが、信長の妹のお市の方、長女の徳姫、そして、お市の方の三姉妹(茶々、初、江)などとともに、信長系譜の女性は美人であったと言われています。

『冬姫の父は、子に不思議な名をつけるのが好きだった。
――― 奇妙丸
――― 茶筅
など、ひとの名とは思えなかった。五徳も同じようにつけられた名だ。
(それに比べれば、わたしはましなほう)
と冬姫は思う。おそらく冬に生まれたというだけでつけられた名なのだろう。それでも、父らしい美意識がある名だった。冬という名には厳しい凜列とした響きがあった。』

この小説は、冬姫の生涯の物語です。冬姫は、蒲生氏郷に嫁ぎますが、蒲生家は、信長、秀吉、家康と時代の流れに沿って、家を守っていきます。残念なのは、江戸幕府開府後、お家騒動を機に減封となり、また、嗣子が絶えたため廃絶となります。冬姫は、蒲生家の行く末を見届けてから、この世を去りました。

織田信長の娘として戦国の世を彩って生きた、紅い流星のような生涯だった。』

葉室麟さんの小説は、司馬遼太郎藤沢周平をミックスしたような時代小説で、最近、僕のお気に入りの作家の一人です。