『村上海賊は、現在の広島県尾道市及び三原市と、愛媛県今治市を結ぶ瀬戸内海上の島々、芸予諸島を中心に蟠踞(ばんきょ)した海賊衆である。
芸予諸島は、大小五十以上もの島々で構成される。この島々が、ちょうど瀬戸内海を遮断するかのごとく南北に連なっている。
主要な水運経路であった瀬戸内海を東西に行き来する船たちは、この難所にぶっつかることになる。村上海賊は、これらの難所を構成する島々に城を築いて私的な関所を設けていた。そして城同志互いに連絡を取り合い、往来する船から「帆別銭(ほべちせん)」なる通行料を徴収して、その軍備を維持していた。』
『それぞれ拠点とした島の名を冠して、北から「因島村上」「能島村上」「来島村上」と名乗った。三家を総称して三島村上とも呼ばれた。』
今回は、余談はなしで、「村上海賊の娘(一)〜(四)」の読書雑感です。
2014年本屋大賞を受賞。単行本上下2冊(3,452円)。このとき、買うかどうか迷いましたが、そのうち文庫本がでるだろうと思って、待ちに待ちました。2016年、漸く、文庫本全4巻(2,548円)が、7月、8月の2ヶ月に渡って1巻から4巻まで、順次、刊行されました。紀伊國屋で見つけたときは、超感動してワクワクしましたね。
物語は、戦国時代、天正四年(1576年)、織田信長と大坂本願寺との争いは7年に及んでいました。一方、中国の覇者である毛利は、織田方につくか、本願寺方につくか、の評定で揺れていましたが、大坂本願寺の度重なる要請に応じて、兵糧を援助することに決しました。
そこで、毛利は、村上海賊に大坂本願寺への兵糧の運送を依頼します。ところが、織田方で迎え撃つのは、泉州の真鍋海賊です。ここで、クライマックスは、木津川沖の大海戦が繰り広げられます。この海戦で、能島村上の村上武吉の娘である景(けい)が大活躍するというストーリーです。
『「三島神社は、三島水軍ってものを持っていてな」
景は話を続けている。
伝説では、三島水軍の将の一人に、越智安成という男がいて、鶴姫と想いを通じ合っていた。
「鶴姫はこの男とともに船戦に出て、数度にわたって大内家の水軍を追い払ったということだ」
しかし、何度目かの船戦の際、安成は討ち死にしてしまう。鶴姫は死を賭して大内水軍に最後の突撃を図り、敵を撃退したのち安成を追って入水し、自死した。
「そんとき鶴姫は、十八歳だったんだってさ」
「俺は鶴姫のごとくなりたいのさ」』
景の時代から遡ること三十五年前の大三島の大山祇神社の大祝(おおほうり)の娘である鶴姫の伝説です。大山祇神社の宝物館には、胸がふくらみ、腰がしぼれた鶴姫着用の胴丸が展示されており、受付には、鶴姫伝説の本が販売されていました。ぼくも、三十五年前ぐらいに、大山祇神社を訪れたとき、その本を買った記憶があります。
「のぼうの城」「忍びの国」など和田竜の時代小説は、テンポがよくて、奇想天外かつファンタジックでおもしろいの一言に尽きます。そして、参考文献からの引用が多いので時代考証がしっかりしていることが伺えます。時代小説というより歴史小説というべきかもしれません。とにかく、超スペクタルの時代絵巻に浸ってみてください。ほんとうに、おもしろいですよ。