「日の名残り」

tetu-eng2017-11-12

日の名残り
カズオ・イシグロ
土屋政雄 訳
2017年10月18日第30刷
ハヤカワ文庫

あなたは、「日の出」が好きですか?「日の入り」が好きですか?あなたは、「朝日」が好きですか?「夕日」が好きですか?ぼくは、いまは、「日の入り」「夕日」が好きです。

余談になりますが、もう、ルミナリエの設営が始まりました。設営の様子を見ていると、イタリアから技術者が来て、施工しています。夜は暗くて判りませんが、柱の着色は、トリコロールです。これもイタリアから持ち込みですか?おまけに、脚立は、日本では見かけない木製なので、えっ、これもイタリアから持ち込みですか?と驚いています。

イベントの目的が、「鎮魂」と「復興」なので、あれこれ申し上げることではありませんが、イタリア製でなくても、純和風のやり方もあったと思いますが、当時、さまざまな検討がなされて、居留地神戸らしさを出したのでしょう。20年も続けば、神戸のイベントとして、すっかり定着したようです。



カズオ・イシグロさんは、今年のノーベル文学賞の受賞者です。このブログで、読んでみたいと書きましたが、ようやく、読了しました。というのは、受賞の発表のあと、紀伊国屋で単行本を買おうとしたのですが、ご親切にも、半月待てば文庫本が増刷されるというポップがあったので、それならば、少し、辛抱しようかと思ったしだいです。おかげで、半額で手に入れることができました。

『ここ数日来、頭から離れなかった旅行の件が、どうやら、しだいに現実のものとなっていくようです。ファラディ様のあの立派なフォードをお借りして、私が一人旅をするーーーもし実現すれば、私はイギリスで最もすばらしい田園風景の中を西に向かい、ひょっとしたら五、六日も、ダーリントン・ホールを離れることになるかもしれません。』

「私」はスティーブンス。ダーリントン・ホールの執事です。ダーリントン・ホールは、ダーリントン家の所有が終り、アメリカのファラディ様に売却されました。そのとき、ダーリントン・ホールを管理している執事と召使数人が残りました。しかし、広大なダーリントン・ホールを管理するには、人手がたりません。

といっても、ときは、1950年代です。戦前のように、ダーリントン・ホールで、華やかなパーティやヨーロッパの命運を議論するような会議は、開催することはありません。華やかな時代に、スティーブンスは、ダーリントン卿の下で、執事として仕えてきました。

戦後、大英帝国の輝きは、アメリカにとって替わられ、その象徴ともいえるダーリントン・ホールの所有の移転。そして、アメリカ車のフォード。小説は、スティーブンスのフォードでの一人旅の途中、さまざまな思い出に浸りながら、また、回想しながら、執事としての矜持、「品格」について語っていきます。

旅の最後に、一人の男に出会います。

『「いつも後ろを振り向いていちゃいかんのだ。後ろばかり向いているから、気が滅入るんだよ。わしを見てごらん。隠退してから、楽しくて仕方がない。そりゃ、あんたもわしも、必ずしももう若いとは言えんが、それでも前を向きつづけなくちゃいかん」
「人生、楽しまなくちゃ。夕日が一日でいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなに尋ねてごらんよ。夕日が一日でいちばんいい時間だって言うよ」』

この小説は、プロローグとエンディングに作者の思いが凝縮されているように感じます。もう一度、読みたいと思うh本です。うむ、ノーベル文学賞作家の小説です。