ホームレス中学生

ホームレス中学生

ホームレス中学生
麒麟」という漫才の芸人の一人である田村裕が著者で、今年のミリオンセラーの自叙伝です。テレビでお馴染みですが、芸人さんの書いた本と言うことで、読んでみようとは思っていなかったのですが、ある日、帰宅すると、あまり本を読むことをしない大学生の息子が、リビングで一生懸命に本を読んでいました。
「珍しいこともあるね。何を読んどるん?」と問いかけたら、「ホームレス中学生」と答えが返ってきました。「どうしたん?」と更に問いかけたら、「友達から借りたん。」と更に答えが返ってきました。更に、しつこく聞いてみると、学校から帰宅する電車の中から読みとおしで、もうすぐ、読み終わるとのこと。おおむね、3時間ぐらいで読み切ってしまう勢いだという事だったのです。本を読まない子供といっても、大学生が、そんなに入れ込んで読むということは、何か面白くて、引き付けるものがあるのだろうと思い、読み終わったら貸してほしいことを伝え、彼が読了後、借り受けて読みました。
テレビでおなじみの一家離散から自叙伝は始まります。お父さんが子供三人を集めての「解散」の一言。そして、兄さん、姉さんと別れて中学生の主人公「たむちん(田村のあだ名)」が1人っきりで「まきふん公園」で生活する様子が最初の下りです。この辺りは、テレビのバラエテイで、麒麟の田村が出演している時には、必ず、話題となり、爆笑のネタとなっています。
本を読むに進んで、ある疑問が読む者に湧いてきます。お母さんは、どうしたのだろうか。実は、この自叙伝の主題は、お母さんのことだったのです。ここで、すべてをお話ししては、ミステリー小説の謎ときをすることと同じなので、詳しくは、紹介しませんが、この自叙伝の主題は、「たむちん」のお母さんに対する愛情だったのです。このお母さんに対する愛情が、ストレートな表現で、自叙伝の後半を埋め尽くしています。
お笑い芸人の自叙伝が数冊出版されてベストセラーになっていますが、ベストセラーになる意味が解ります。多分、この本を含めて、文学小説ではないと思いますし、文章は、小学生の作文のようなものですが、すべての表現がストレートで解りやすいという意味では、非常に読みやすく、一気に読み下すことができると言うことだと思います。
夏目漱石芥川龍之介などの小説家と比較するのは、どうかとは思いますが、これらの小説家の小説には、常に、哲学があり、その哲学を行間から読み取ることが必要です。そう言った意味では、現代のビジュアルの世界で生まれ育った若者には、理解しにくいものだと思います。皆がそうではないと思います。先日、電車で、横に座った丸坊主の高校生(多分、野球部の学生)は、三島由紀夫の「金閣寺」を読んでいました。その時、「へえ、今時、金閣寺を読む学生もいるんだ。」と感心しました。
この本は、そう言った意味では、コミックのようにビジュアルな世界を文字で、ストレートに表現しているということが、若者から支持されているのではないでしょうか。いい本だと思います。そして、読むときは、必ず、後書きまで読んでください。「たむちん」のお母さんへの愛、兄姉への愛と感謝、彼の周囲に人への感謝、それらが、すべて、ストレートに文字で表現されています。