「いま、会いにゆきます」

いま、会いにゆきます

いま、会いにゆきます
市川拓司
株式会社小学館
2003年3月20日発行
1500円(神戸市立図書館)

通勤の地下鉄の電車の席に座って、この本を読みながら、双眸に、あふれる涙を溜めながら、流れ落ちるのを、なんとか我慢していました。
5年前のベストセラーです。映画化、テレビドラマ化もされ、いずれも、大変な人気だったと記憶しています。「いま、会い」というセンテンスが流行語にもなりました。その頃、この小説は読んでいませんでした。
映画は、秋穂澪役に竹内結子(高校生の澪役に大塚ちひろ)、秋穂巧役に中村獅童(高校生の巧役に平岡祐太)、秋穂佑司役に武井証で、2004年に上演されました。
ドラマは、澪役にミムラ(中学生の澪役に黒川智花)、巧役に成宮寛貴(中学生の巧役に福本有季)、佑司役に映画と同じ武井証で、2005年に放映されました。残念ながら、映画はともかく、テレビドラマ好きの私が、このドラマを見ていません。日曜9時からのTBSの日曜劇場です。
主題歌は、映画もドラマも「ORANGE RANGE」の担当で、映画が「花」、ドラマが「キズナ」です。両方とも、歌は、知っています。それなのに、何故か、この小説、映画、ドラマに、まったく興味を持たなかった理由が思い出せません。
ひとつ考えられるのは、今から3年前ごろから、私に、巧くんと同じような不具合が始まり、あまり、シリアスな読みものやドラマを好まなかったためかもしれません。
小説は、情景描写や心理描写が、殆どなく、まるでドラマの脚本のように、澪と巧の会話で占められています。その会話から、情景や心理が浮き出てくるという構成です。
小説の始まりは、児童書かと思わせるものです。

『澪が死んだとき、ぼくはこんなふうに考えていた。
 ぼくらの星をつくった誰かは、そのとき宇宙のどこかにもうひとつの星をつくっていたんじゃないか、って、
 そこは死んだ人間が行く星なんだ。
 星の名前はアーカイブ星。』

あらすじは、1年前に病死した妻「澪」が、彼女が死ぬ前に言い残したとおり、「雨の季節に」6週間だけ、巧と佑司(小学校1年生)のもとに戻ってきます。でも、戻ってきた澪には、記憶がありません。そこで、巧は、澪と巧の中学生の時から、結婚して、佑司が生まれるまでの話をします。何故、澪が「雨の季節に戻ってくる」と言い残したのか。その真相は、澪が死ぬ前に巧宛に残した手紙にありました。
澪が、消えていくシーンは、今でも、涙があふれてきます。小説の全体に、男と女の清純な愛と、夫婦の愛、親子の愛が、満ち溢れています。

『彼女の姿がふいに揺らいだ。繋いだ指先の感覚がひどく頼りないものになった。
 すでに彼女の右半身は消えていた。
 澪はそれでもまだ、懸命にぼくに言葉を伝えようとしていた。
 「あなとの隣はいごこちがよかった  できるなら、ずっといつまでもあなたの隣にいたかった」
 「うん」
 「愛しているの。あなたが好きよ。あなたの奥さんでよかった」
 「ぼくもだよ。ぼくも」
 彼女がにっこり微笑んだ。
 半分だけの微笑み。
 「ありがとう、あなた」
 いつか、また、どこかで会いましょうね・・・・』