今夜は、遅くなりそうです。

お地蔵さん

『ホコリだらけの車に指で書いた
true lave my true lave
本当に愛していたんだ
・・・・
今日をわかった また会う日が
いきがいの 悲しいDestiny』

「ねえ、Destinyって、どういう意味?」A奈のママが、気持よく唄っているそばで、突然の質問を投げかける。
「悲しいDestiny 〜♪♪  知らないよ。・・・唄っているときに、突然きかないでよ。」と二番の歌い出しにそなえる。
と、横を見ると、ママが携帯電話を取り出して、「Destiny」の意味を調べています。
「わかった。わかったよ。『運命』だって。じゃじゃじゃじゃ〜ん。」
「あっ そう でも これ ユーミン
26日の金曜日。会社の仕事納めの会を終えて、ふらふらと一人で、三宮の繁華街に足が向きます。1年の仕事も、とりあえず終わったという安堵感を感じながら、いつものスナックA奈のドアを押しました。
「ボンソワール」
「お久しぶりね。ちょっと、太ったんじゃないかしら。」
「君には言われたくないね。」
どこかで聞いたことがあるような会話が流れる。
A奈では、はやいお客さんが、もう歌の真っ最中。カウンターの奥を見ると、見なれた顔が見えます。同じ会社のSくんとKくんが、はやくも陣取っていました。
「はやいね。もう終わったの?」それぞれ、部署が違うので、仕事納めの会もバラバラですが、偶然にも、A奈で一緒になりました。
「うちの部は、はやくに終わって、解散しました。」
そんな ありふれた会話も、カラオケの歌にかき消されるので、水割りのグラスがカウンターに置かれる暇もなく、こちらも、カラオケの選曲をしています。ふと、カウンターを見ると、ニューボトルが置いてあります。
「ニューボトルを入れるときには、お客に断るのが普通でしょう。」
「入れますよって、言いましたよ。」
すると 横にいたSくんが、「僕が、『いいよ』って言いました。」
「えっ おれのボトルだよ。おれの・・・・まあ、いいか。」
A奈に来るようになって、7年ぐらいになっただろうか。この手の会話は、もう、何度繰り返されたことだろう。つまらない、言葉のやり取りが、アルコールで少し、マヒした頭の中でジーンと心地よく感じられる。
これが、スナックの魔力でしょうか?今夜は、遅くなりそうです。