「曽我兄弟の密命」

曽我兄弟の密命

「曽我兄弟の密命」
高橋 直樹
文藝春秋
2009年1月10日発行
752円

日本の三大仇討。「曽我兄弟の仇討」「赤穂浪士の討ち入り(ご存じ、ときは元禄十四年十二月十四日本所松坂町吉良邸の門前では、・・・・)」「伊賀越えの仇討(鍵屋の辻の決闘。寛永十一年渡辺数馬と荒木又衛門が、数馬の弟の仇である河合又五郎を討った事件)」。曽我兄弟は、鎌倉時代。あとの二つは、江戸時代の事件です。
この歴史小説は、2006年に「天皇の刺客」という題名で、単行本として発行されました。そのときは、「天皇の刺客」という題名では、曽我兄弟のはなしとは思われないのでしょうか。文庫本化にあたり、「曽我兄弟の密命」と改題されたようです。
最近は、単行本が、1800円程度。これに比べて、文庫本が、500円程度です。ちょっと前は、単行本が、800円程度、文庫本が、200円程度でしたが・・・。何年前かというと、私が、大学時代の昭和50年ごろのお話です。単行本は、本も、価格も、かさばるので、最近は、文庫本化されるのを待って購入します。この本も、その1冊です。
「曽我兄弟の仇討」といえば、むかし、むかし、子供のころに、児童文学かなにかで読んだ記憶があります。きれいな武者の錦絵が書いてあった絵本だったかもしれません。曽我の十郎、五郎の兄弟が、富士のすそ野で、親の敵である工藤祐経を討ち果たす物語です。
高橋氏の小説では、実は、本当の狙いは、別にあった。しかも、その陰には、鎌倉幕府武家政権に不満を持つ京都御所のうごきが絡んでいるという設定です。小説は、3章で構成されています。「第1章曽我の名字」五郎と十郎の兄弟が、父の死、祖父の死の真相を知って、仇討を決心します。

『「佐どのが祖父入道を討ったのが正しいのなら、おれたちが佐どのを討つことも、また正しい」
 肩を抱かれた五郎が、すがるように兄を見つめる。十郎は弟の耳もとでささやいた。
「それが兵(つわもの)ノ道だろう」』

「第2章天皇の宣旨」後白河法皇が亡くなり、十三歳の後鳥羽天皇が、朝廷の頂点に立ちますが、後鳥羽天皇は、鎌倉幕府を面白く思ってはいません。京都では、そのころはやり唄が唄われていました。

『源氏は代々謀反人
 義親、為義、義朝
 三代そろいし獄門首
 あれに見えるは兵衛佐
 貴き源氏の嫡流
 父祖につづけや獄門首
 源氏の習い、獄門首

「第3章恩讐の修羅場」富士のすそ野での幕府主催の「巻狩り」の本陣へ。いざ。五郎と十郎の本名は、曽我ではなく、佐どのに滅ぼされた伊東姓。兄弟は、首尾よく工藤祐経を討ち果たすが、兄弟の本当の目的は、頼朝の首だったのです。