「トッカン 特別国税徴収官」

tetu-eng2012-10-29

「トッカン 特別国税徴収官
高殿 円
ハヤカワ文庫
2012年5月25日発行
760円(税別)

 2年前の1月、松が明けた頃です。会社の私のダイヤルインにある電話がかかってきました。以下、電話のやりとりの概略です。「もしもし、○○の経理部の○○です。」(以下、個人情報保護のため個人に係わる名称は○○と表示します。あしからず。)「経理部の○○さんですか?」「はい、そうです。」「こちらは、○○国税局の調査第○○部の○○です。」「はい。どういったご用件でしょうか?」「1月○日に臨場に伺いたいのですが、ご都合は如何でしょうか?」「はあ???臨場ということは?」「はい、法人税・消費税調査です。」「(げえ、国税庁調査か?)国税調査ですか?」「はい、そうです。ついては、事前のヒアリングのために1月○日にお伺いしますが、ご都合は如何ですか?」「はい、調整のうえ、ご連絡しますが。」「特別な事情がない限り、日程は変更できませんので・・」「はあ、(それなら、ご都合を聞くなよ)解りました。お待ちしておりますので、よろしくお願いします。」「はい、よろしくお願いします。」この一本の電話から半年に亘る国税局との攻防が始まりました。その結果は、ご推察のとおりです。

 この小説は、うら若き二十五歳の女性の鈴宮深樹(すずみやみき)こと、東京国税局京橋地区税務署の特別国税徴収官(略して「トッカン」)・鏡雅愛(かがみまさちか)付きの新米徴収官の奮闘記です。

 『「帰れーーー!!」
 ご近所中にとどろく音量で、本日の訪問対象者、世田谷区尾山台在住、下島絵津子は怒号をあげた。ドアを開けた彼女は、太くたくましい左腕につやつやした毛並みの小型犬を抱え、顔はまさに憤怒の形相だ。
 「あ、あの・・・」
 対するわたしこと鈴宮深樹ときたら、あまりの予想外のお迎えに、ボーゼンと玄関口につったったままである。
 (塩・・・、撒かれた・・・)
 厳しい現実に、その場にへたりこみそうになった。出会い頭にその辺のナメクジよろしく。あまりのことに、抗議のコメントすらでてこない。
 「帰れ、こっちは税務署なんか用はない!」』

 豪華マンションに住んで、贅沢な生活を送りながら、税金を滞納する銀座のスナックのママさん、食うや食わずの生活のため税金を滞納せざる得ない下町のプラスチック工場の親爺、それでも、国税徴収官は、取り立てに奔走します。納税は、国民の義務です。税金をキチンと納めている人、納めていない人、納めたくても納められない人など、税金の支払いをめぐって、事情は様々、国税徴収官は、闇雲に、滞納者から徴収すればいいのか?そんな悩みを抱えながら鈴宮深樹は、滞納者への訪問を繰り返しています。そんな鈴宮深樹を応援したくなる小説です。

 この本を読むと、税務署のお仕事が良く解ります。税金は、納める人も、集める人も、大変な思いをしています。税金の使い道などを決める日本の偉い人たち、この小説を読んで、肝に銘じて欲しものです。そうだ、総理大臣以下国会議員、財務省などのお偉方に、この小説を配布して、税金とは何かを、もう一度、勉強していただいては如何でしょうか?この日本で、一番被害者の多い犯罪は、脱税。被害者は1億3千万人。そして、税金の非効率な執行は、背任。被害者は、1億3千万人です。