「楽園のカンヴァス」

tetu-eng2014-10-05

「楽園のカンヴァス」
原田 マハ
新潮文庫
平成26年年7月20日発行
670円(税別)

 最近、人気絶頂の林修さんの「今でしょ!講座」で「学校で教わらない!?絵画ってこんなに面白い講座」のテレビ放映を見ていたら、原田マハさんがゲストとして登場しました。内容は、美術史を分かり易く解説する番組でした。近代美術に至る歴史が、よく分かって、とても、勉強になりました。この番組、結構、勉強になるので、興味のあるテーマの時は、ときどき、見ています。

 それもそのはず、原田マハさん。経歴をみると、早稲田大学の美術史科を卒業後、マリムラ美術館、森美術館ニューヨーク近代美術館で勤務。その後、フリーのキュレーターとして活動していたとのこと。キュレーターとは、学芸員のことですが、もっと、広くは、美術コーデイネーター(たとえば、展覧会の手配など)も含むようです。

 この小説の主役は、キュレーターです。いや、と言うより、近代美術の幕開けの巨匠アンリ・ルソーの「夢」が主役かもしれません。ぼくの知っているアンリ・ルソーは、まるで小学校の子供が書いたような遠近法、明暗法など、あらゆる絵画の技法を無視した絵を描き、「日曜画家」、要するに素人画家と揶揄されていた人物です。しかし、その才能を認めたのは、パブロフ・ピカソだったのです。

 話は横にそれますが、ぼくは、一時期、絵画に興味を持ち、「週刊美術館」の発行を毎週、楽しみにして、全巻揃えたのですが(2000年ごろのこと)、揃えてしまうと、目的を達したようなもので、本箱に飾られて、ときどき、のぞき見するぐらいの利用になってしまいました。実は、この小説を読んだ後、久しぶりに、「週刊美術館」をひもときました。

 この小説は、美術ミステリーです。ルソーの「夢」とは、別に、あるコレクターが所有する作品「夢を見た」。この作品は、ルソーの作品か?二人のキュレーターが、その真贋を判定するために、呼ばれました。その真贋を判定するために科学的な機械の活用は禁じられています。用意されたのは、ある一冊の古書です。その古書には、ルソー、そして「夢」のモデルのヤドヴィガ、さらに、ピカソの物語が綴られていました。

『 ルソーの絵画制作のプロセスは、エスキース(下絵)を拡大し、画面上に緑や動物などの細部を描き加えていく、ということは知られている。そこにはいかなる即興性もない。どこまでも生真面目に、エスキースを拡大したカンヴァスに、緻密に絵の具を塗り重ねていくのがルソーの特徴であり、彼のルールである。生真面目なあまり、構図や遠近法において破綻が生じるが、それがむしろルソーらしさ、結局は画家のメチエとなっている。
ところが、この作品では、それらのルールが極端に守られすぎていて、一分の隙もない。それがかえって不自然さをもたらしている。』

さて、「夢を見た」は、ほんとうにルソーの作品なのでしょうか?そして、この作品に、秘められた謎は?美術ミステリーなる小説は、何冊か、読んだことはありますが、この小説ほど、絵画の技法などにこだわった内容のものは知りません。さすがに、キュレーターの経験をもつ原田マハさんならではの小説ではないでしょうか?

小説も、さることながら、是非、アンリ・ルソーの作品も鑑賞してみて下さい。