「風の武士(上)(下)」

tetu-eng2016-02-21

「風の武士(上)(下)」
司馬 遼太郎
講談社文庫
1996年2月15日第29刷

文藝春秋2月号に、司馬遼太郎の遺稿「「龍馬がゆく」がうまれるまで」の掲載がありました。わずか、4ページの紙面でしたが、「龍馬がゆく」を書き始めるきっかけが綴られていました。

「龍馬がゆく」は1962−1966に産経新聞新聞小説として連載され、1963−1966に文藝春秋から単行本全5巻として刊行されました。ぼくが、読んだのは高校生の頃なので、1970ごろでしょうか?それから、半世紀をすぎようとしていますね。ビックリポンです。

「龍馬がゆく」は1968NHK大河ドラマでも放映されて、龍馬役は北大路欣也が演じていたのが記憶に残っています。えっ、中学3年生の頃かな?また、また、ビックリポンです。

そんなきっかけで、司馬遼太郎を読んでみたくなり、物色していたら、古本屋さんで、記憶にないタイトルの文庫本を見つけました。それが、「風の武士」です。

司馬遼太郎の年譜を見てみると、1960に「梟の城」で直木賞を受賞して、同じ年に「週刊サンケイ」に連載しているので、司馬遼太郎の作家デビュー当時の初期の作品ですね。

『「信さん、お目ざめ?」
廊下を、はたきを掛けながら往き来していた兄嫁の律の足音がとまって、襖のむこうから声をかけた。相変わらず、甘い声だった。柘植信吾は、ふとんをかぶった。
襖があいて、光りが流れこんできた。ふとんの隙間からそっと薄目をあけると、細い光りの帯を踏んで、律の白い足袋が入ってくるのがみえた。
「まだ?もう陽が高いわ」
枕許を、律の裾が通った。貧乏御家人の内儀のくせに何を焚きこめているのか、信吾の鼻腔に湿りのある重い匂いが残った。』

小説の書き出しは、そこで、小説への興味をひかせる「いわば、つかみ」の部分です。この「つかみ」で、この小説の主人公は、貧乏御家人の次男坊の柘植信吾。性格は、ずぼらでやや女好き。さて、このあと、どんな物語が待っているのか。

司馬遼太郎といえば、歴史小説に代表的な作品が多いのですが、実は、おもしろいのは時代小説だと思います。この時代小説にも、正確な時代考証がなされているので、歴史上の出来事かと思い間違うほどです。

時代は、幕末。伊賀同心の末裔の柘植信吾に、公儀から密命が下ります。これが、ちょいと、荒唐無稽な話なのだが・・・・。熊野の山奥に安羅井国という隠し国がある。そこには、逼迫する幕府財政を救うことができるほどの財宝が隠されているとのこと。

『「手段をえらばず、安羅井の隠し国が所蔵する金銀を、のこらず公儀の庫に入るようにはからってもらいたい。なるほど、安羅井国は平間退耕斎を通じて、公儀に保護を求めてきている。公儀は、表むきそれに好意だけを示して、裏ではひそかに内偵をすすめ、隠し国の所在をつきとめ次第、金銀を押収するつもりである。そちの役目は、まず、退耕斎を籠絡して熊野にあるという隠し国の所在をたしかめ、さらに紀州藩の隠密の跳梁を封ずるのが仕事と思えばよい、わかるか」』

若年寄松平豊前守からの直々の示達であった。そして、なんと役料として千両の金子を賜った。しかし、なぜか、信吾は、役料には手をつけず、安羅井国の所在を突き止めるために上方への旅に発ちます。冒険の旅です。もちろん、旅の途中では、いろいろな邪魔が入りますし、また、いろっぽい出来事もあります。まさしく、幕末、エンターテイメント冒険談ですね。