「まち」

「まち」

小野寺史宜

祥伝社文庫

令和4年11月20日初版

「青柳」

元町アーケードから一筋ほど山側に元町北通りがあります。「jam jam」でジャズを聴いて、その通りを神戸駅に向かって歩きます。通りの中程には、神戸のウナギの名店「青柳」があります。

濃紺の暖簾がかかっているのに、その横の格子窓には、「準備中」の木札がぶら下がっていました。ぼくは、まだ、入ったことがありません。二階、三階は、たぶん、座敷でしょうか。椅子席でしょうか。

ウナギの味はどうでしょうか。黒色の排煙ダクトが、黄土色の壁に張り付いています。匂いがしないので、まだ、焼いていないようです。定休日かな。

 

2022年、令和4年は、残り、僅か。ついこの前に、初詣に行ったと思っていたら、もう、来週には、湊川神社にお参りです。

 

思い起こせば、今年は、いろいろ不調がありましたが、おおむね復調して、大事に至らずに、年末を迎えることが出来ました。ありがたいことです。感謝。

 

来年、ぼくは、「古希」を迎えます。どんな年になるのか?ワクワクドキドキ。とにかく、「健康第一」で、愉しく、面白く、そして「清く、正しく、貧幸に」過ごしましょう。

 

今年最後の読書雑感は、小野寺史宜の「まち」です。

 

小野寺さんの「ひと」の続編的な小説です。小説の中に、砂町銀座商店街の「田野倉」という総菜屋さんがでてきて、そこで、主人公がコロッケを買うのですが、この場面、「ひと」を呼んだ方は、「あっ、田野倉だ」と気がつくでしょう。

 

「ひと」に続いて「まち」も、優しい気持ちになる青春小説です。

 

主人公の江藤瞬一は、ある事情でお祖父さんに育てられます。瞬一が、高校を卒業すると、お祖父さんは、進学か、就職か、いずれにしても、村から出て東京に行くことを勧めます。

 

『「瞬一は東京に出ろ。東京に出て、よその世界を知れ。知って、人と交われ」

「じいちゃんは?」

「ここに住む。じいちゃんは村の人間で、もうとっくにじいちゃんだ。ここを出る気はない。」』

 

というわけだ、瞬一は、東京に出たが、進学もせず、就職もせず、コンビニでアルバイト、そして、今、引越のバイトをしている。

 

瞬一の住まいは、荒川沿いのアパート、知り合いのいない東京で、コンビニ、引越しの同僚、アパートの住人など、多くはない知人と交わりながら、青年は、日々、成長していきます。

 

特別な事件もないし、恋愛もないし、これで、小説が成り立つのか?不思議ですが、テーマがない小説も、成り立つのです。「ひと」の暮らし、そして、「まち」での暮らし、瞬一という田舎から出てきた青年の生活が小説のテーマになっているのです。

 

それが、面白いのか、というと、小説に強烈なメッセージはありませんが、優しい時間を提供しているという小野寺小説の真骨頂かもしれません。

 

『だから、たまにはこうして荒川の河川敷を走る。毎日何キロ走るとか、雨の日でも必ず走るとか、そんなふうに決めはしない。走りたいな、と思い、晴れてて気持ちよさそうだな、と思ったら、走る。河川敷の舗装道を海の方に下っていく。』

 

 

人生って、ほんとは、そんなものかもしれません。

 

これにて、本年、最後のブログでした。1年間、お寄りいただきありがとうございました。