「美しくなるにつれて 若くなる」
白洲 正子
角川春樹事務所
1998年9月18日発行
1050円
大人のたしなみ「ランテイエ叢書」シリーズの1冊です。この本は、ハードの表紙で、文庫本のいわゆる「豪華本」です。「豪華本」といえば、
むかし、「豪華本」がブームになったことがあります。そのなかで、たしか出版社は講談社だったと思いますが、昭和50年頃、吉川英治全集全55巻が発行されました。本の装丁といわれるカバーは、布製で、表紙、カバー、見返し、帯もしっかりしたいわゆる「豪華本」でした。もちろん、外箱も、凝ったしつらえがしてありました。当時、大変に高価な本だったため全巻を買いそろえることはできませんでしたが、「三国志」3巻、「宮本武蔵」3巻、「親鸞」の7冊を買ったところで、そのあと、それ以上を買い揃えることをあきらめました。
『発刊の辞
ランテイエとは、十九世紀末パリの都市文化が産み落とした高等遊民(隠居的生活者)の総称である。
「ランテイエ叢書」は、豊さと幸福の発見、消費文化に消費されない心の拠として、日本の風土、伝統、美意識を伝承する永遠の図書館たらんことを願っている。
1997年7月角川春樹』
白洲正子さんは、白洲次郎さんの細君です。旧姓は、樺山。お父上は、樺山愛輔(伯爵)。祖父は、樺山資紀(海軍大将、初代台湾総督)。母方の祖父に川村純義(海軍大将)。いずれも薩摩藩出身の華族です。
白洲正子さんは、薩摩藩出身の華族を意識しながら、明治、大正、昭和、平成の時代を生き抜いてきた女性として、激しい時代の流れを感じながら、自由な発想と独特な感性で多くの随筆を書き遺しています。その随筆の数編が、この本に収録されています。
『遊ぶことは働くことと同じくらいむずかしいことです。いや、遊ぶことの方がはるかにむずかしいのではないかと思います。
遊ぶことを知らない人は、遊ぶ時に、醜悪な、往々にして不健康な遊び方をしてしまいます。また、遊んでいるつもりでつい働いている人もいます。何か理由をつけて、自分の遊びを意味ありげなものにしたくなる人もあります。ー「たしなみについて」よりー』
男の人は、誰もが、遊ぶ時に、何か理由をつけます。子供も、大人も同じです。女の人も、そうなんでしょうか?特に、サラリーマンは、誰もが、「アフターファイブも仕事のうち」と言っています。私も、ご多分に漏れずに、遊びに何か理由をつけます。何故でしょう。
そうそう、白洲正子さんと似た女性がいます。時代は、一世代ほど違いますが新島八重さんです。同志社大学の創設者新島襄さんの細君です。
八重さんは、戊辰戦争の折、会津若松城の籠城戦で、女性ながら、会津藩の砲術指南役の娘としてスペンサー銃で官軍と戦った女傑です。後に、「幕末のジャンヌダルク」と呼ばれています。その後、兄を頼って京都に移り住み、そこで、新島襄に見初められました。
ところが、欧米流のレデイ・ファーストの新島襄と八重の関係を見た京都の人達は、八重のことを悪妻と噂したそうです。しかし、そんな噂を気にもかけずに、襄が亡くなった後、八重は自由奔放に自分の信念に従って、様々な社会活動に懸命になったそうです。
八重と正子との共通点ですが、当時の女性としては、先駆けて、八重は「茶道」を正子は「能」を極め、2つの日本文化を女性の間にも広めていったことです。明治のハンサムウーマンが新島八重(襄は、八重をそう呼称していました。)であれば、白洲正子は、昭和のハンサムウーマンと呼べると思います。
『人間の命は短い。五十年としても二万日に足りません。西洋の諺に、「今」よりほかのタイムはない、というのがあります。なんでも、今しなくてはいつまで経っても出来ないのです。
夜も更けました。私は、今、生きていることを感謝しつつ、筆をおき、今日一日を終わります。―創造の意味よりー』