「スパイの妻」
行成 薫
講談社文庫
2020年10月7日第4刷発行
巻頭の写真、どこか不思議だと思いませんか?
よ~く、見てください。
わかりましたか?
そうです。この写真、部屋の中から、黒く磨き上げられた座卓に、スマホをセットして、外のお庭と、座卓に写り込んだ景色を撮影したものです。きれいでしょう。
場所は、福崎の「応聖寺」です。左程、大きなお寺ではありませんが、本堂からお座敷に入ると、裏山の綺麗な紅葉を見ることができます。
ぼくが、この写真を撮った後にも、お若い女性のグループが、同じようにスマホをセットして、撮影していたので、「インスタ映え」するってことかな。
お抹茶と和菓子の「お!も!て!な!し!」もあります。真っ赤な毛氈のうえに座って、ゆっくりとお庭を鑑賞しながら、お抹茶をいただくことができます。こんなとき、日本人でよかったね。
「スパイの妻」
ただいま、上映中の映画の原作本です。
ときは、太平洋戦争前夜。ところは、神戸・・・この小説、舞台は、神戸、そして新京、哈爾濱(ハルピン)です。
主人公は、貿易商の妻、福原聡子、夫の優作。
物語は、八重子(聡子の子供)の息子が、片づけをしていた二階から、古い映写機とフィルムを見つけたところから始まります。それを見たとき、八重子は、「スパイの子」と揶揄された幼いころを思い出しました。
賢明な読者の方は、もう、お分かりだと思います。「べた」な物語の始まりです。そう、そのフィルムには、母であり、祖母である聡子の姿が写っていました。
『「スパイの妻」と書かれたフイルムに残っていたのは、生前の母の姿だった。どういった意図で作られた映像なのかはわからなかったが、化粧をし、洒落た洋服で着飾った母の姿に、八重子はひどく驚いた。八重子の記憶の中の母は、化粧っ気がなく、服装はいつも量販品で地味だったからだ。だが、壁一面に映った母の顔は、凛としていて、とても美しかった。』
小説の場面は、戦前の神戸に大きく展開します。
聡子は、貿易商の夫と、幸せな生活を送っていました。あるとき、夫の優作は、関東軍との薬品の納入の取引で満州に出張します。ところが、満州から帰国した優作の様子に異変を感じました。満州で、優作に何があったのか?
聡子の周辺に、憲兵隊や特高の影が・・・。そして、謎の女性、草壁弘子の存在。夫は、スパイなのか?何も、話してくれない夫・・・。
久しぶりのサスペンス小説でしたが、ただし、なんというか?「キレ」が、いまいちという感じでした。サスペンスは、ドキドキ感と「謎」が「謎」を呼ぶという展開に「キレ」が必要でしょう。たぶん、先が読めてしまうためでしょうか?
映画は、好評らしいですが、まあ、コロナのこの時期、シアターに足を運ぶのは、ちょっと、敬遠ですね。