「風に舞いあがるビニールシート」

風に舞い上がるビニールシート

風に舞いあがるビニールシート
森 絵都
文春文庫
2009年4月10日発行
543円

2006年7月。第135回直木賞受賞の作品です。
この文庫本は、この作品以外に短編が5編収録されています。読了後の解説を読んで、この作品が直木賞を受賞していたことを知りました。じつは、私の感想としては、この作品よりは、他の5編の方が面白いのではないのかな。と感じていますが、偉い選考委員さんの選考ですから・・・・。
他の5編の主人公は、それぞれの生き方を探しています。「器を探して」は、オーナーパテシエの秘書として、お菓子の盛りつけのお皿を探して、「美濃焼」―瀬戸黒―にほれ込んでしまう弥生。「犬の散歩」は、犬保護のボランテイアのために、スナックでアルバイトをしている恵利子。「守護神」は、夜間大学の試験前になると、働く学生の頼りになるとの噂のニシナミユキを探す裕介。「鐘の音」は、不空絹索観音像の修復にある秘密があることを数年後に知ることとなる潔。「ジェネレーションX」は、一緒にクレーマーの対応をすることとなった世代の違う健一と石津。
さて、「風に舞いあがるビニールシート」は、ちょうど、NHK土曜ドラマで放映中です。このNHK土曜ドラマは、番組内容によっては、楽しみによく見ているのですが、本を読んでしまったことと、ストーリーが、あまり好みではなかったので、主演の吹石一恵さんには、申し訳ありませんが、見ていません。

『ビニールシートが風に舞う。獰猛な一陣に翻り、揉まれ、煽られ、もみくしゃになって宙を舞う。天を塞ぐ暗雲のように無数にひしめきあっている。雲行きは絶望的に怪しく、風は暴力的に激しい。吹けば飛ぶようなビニールシートはどこまでも飛んでいく。とりかえしのつかない彼方へと追いやられる前に、虚空にその身を引き裂かれないうちに、誰かが手をさしのべて引き留めなければならない。』

里佳は、父親の仕事の関係からシカゴで育ちました。英語は、彼女の就職した投資会社では、役に立ちましたが、彼女は、誇りを持てない投資会社の仕事に嫌気を感じて、退職します。次に、彼女の選んだ再就職先は、国連難民高等弁務官事務所UNHCR)でした。そこで、彼女は、上司のエドと恋におち、結婚しますが、エドの生きる場所は、東京のUNHCRの事務所ではありませんでした。彼は、常に、フィールド活動を求めていたのです。彼は、希望どおり、里佳と結婚して、すぐに、ザイールに旅立っていきます。

『戦場さながらの危険地域に夫を送りだす不安。怪我や病気。あるいは死の知らせがいつ舞こむやもしれない恐怖。待ちに待った一時帰国の日が訪れても、彼はまたすぐに電話すら通じない辺境へと旅立ってしまう。つぎに再会できるのはいつ?里佳が訊くよりも早くエドは笑う。一年後には会えるさ。いや、わからない。また新たな紛争が起こればそれさえも数多の不確定事項の中へ押しやられてしまう。』

様々な紛争地域が世界には充満しています。その地域に、その紛争と無関係のない人々が、様々な目的をもって入っていっています。当然、死と隣り合わせの危険な行動です。でも、何故、彼らは、そこに入っていくのか?この小説の舞台は、平和な東京のUNHCRの事務所で、紛争地域に入っていくエドと東京に残る里佳の恋と葛藤が、テーマです。
そうそう、NHK土曜ドラマは、今週から「刑事の現場2」です。主役は、森山未来くん。今回の相棒は、寺尾聡から武田鉄矢に交替です。