「ガリレオの苦悩」

tetu-eng2012-02-11

ガリレオの苦悩」
東野 圭吾
文春文庫
2011年10月10日第一刷
2011年11月 1日第五刷
648円+税

探偵ガリレオ」、「予知夢」、「容疑者Xの献身」(直木賞受賞)、そして、「ガリレオの苦悩」。久しぶりの東野圭吾さんです。東野さんは、今、一番の売れっ子の推理小説家。本屋さんでは、東野コーナーが設けられているほどです。私は、残念ながら、ガリレオシリーズしか読んだことはありません。このシリーズは、短編ですが、「容疑者Xの献身」のみが長編です。御存じ、福山雅治柴崎コウの人気テレビドラマの原作です。

『「このビルの一番上から転落したわけか。それじゃあ、ひとたまりもないな」
「ほぼ即死だったみたいです。病院に運ばれることもなかったとか」薫は言った。
 屋上の駐車場に上がり、二人は車から降りた。湯川は建築中のビルの方を向いた。腕を伸ばし、親指を立てた。
「何をしているんですか」
「距離を測っている」
「えっ」
「僕の目から右手親指までの長さが約七十センチ、親指が約六センチ。今こうして見ると、親指の長さが、ちょうどビルの一階分と一致する」湯川は片目を閉じ、親指とビルの鉄骨とを重ね合わせている。「一階分を三メートルだとすれば、ここからビルまでの距離は約三十五メートルということになる」
薫はしげしげと物理学者の顔を眺めた。
「数学をそんなふうに日常生活に使う人って、初めて見ました」
「これは数学じゃない。算数だ。比例というのは、小学校の教科書に載っているはずだ」湯川はさらりといい、腕組みをした。』

小説の筋書きのパターンは、どの編でも、ほぼ同じ。警視庁刑事の草薙と内海薫は、怪事件で捜査が壁にぶつかると、帝都大学物理学教室の湯川准教授を訪ねる。草薙と湯川は、帝都大学の同級生でバトミントン部に所属していた。いつでも、話の始めでは、湯川は、迷惑がって乗り気ではないが、草薙と内海に、上手にくすぐられて、しぶしぶ、事件の解明に取り掛かる。そして、湯川の相棒は、薫です。小説の中での湯川と薫の掛け合いも、ちょっと、面白いシチュエーションになっています。
密室のマンションからの女性の転落事件の謎、離れの火災での焼死体に残された日本刀の傷跡の謎、断崖からの転落事故に隠された謎、ダウンジングを操る少女の謎、そして、「悪魔の手」による無差別殺人予告とともに送られてきた湯川への挑戦状―科学を殺人の道具に使う人間は、絶対に許さない。読んでいると、自然と、私の頭の中で、テレビドラマ「ガリレオ」の挿入歌が聞こえ、そして、白衣を着た福山雅治と警察手帳を持った柴崎コウの姿が浮かんできて、動き出すのは謎です。