「パーク・ライフ」
吉田 修一
文春文庫
2004年12月20日第4刷
ぼくが、昼休みや暇なときの気分転換で、ときどき、ブラブラするのが「東公園」です。
神戸市中央区の神戸市役所の海側にある東公園は、正式名称は、「東遊園地」と言うそうです。開園当時は、外国人専用の遊園地で、名称も「外国人居留遊園」だったそうです。神戸らしいですね。
今は、もちろん、外国人専用ではなく、市民の憩いの場として解放されていますし、阪神・淡路大震災以後、年末のルミナリエの中心地にもなっています。震災関連の記念碑も、点在しています。
ちょっと、目にしたのが、神戸がマラソンの発祥の地なんですね。その記念碑がありました。知っていましたか?
んな公園をブラブラしていると、お弁当を食べている人、本を読んでいる人、アベック同士でくついて話をしている人、園内をジョギングしている人、キャッチボール、バトミントンなどをしている人などなど、そんな人たちを、眺めている「ぼく」のパーク・ライフ。
『眼下に見える心字池の深緑色の水面に、水鳥が作る幾重もの波紋が広がっていた。水鳥たちはときどき水中に顔を突っ込み、ぶるぶるっと身震いして羽を広げる。
「あなた、いつもあそこのベンチに座っているでしょ?」
女が池の対岸を指差していた。枝を伸ばした黒松の下には、たしかにぼくが一人でここへ来るときにいつも座っているベンチがある。
「あなた、あのベンチに先客がいると、嫌がらせみたいに何度も何度もその人の前を通って、この前なんか、先に座っていたカップルの前で、わざとらしく携帯なんかかけていたでしょ?三分ぐらい大声でしゃべって、そのカップルが迷惑そうに立ち上がったときのあなたのうれしそうな顔、私、未だに忘れられないもの」
一方的な女の話を聞きながら、その不思議な声に聞き惚れていた。声質というよりも、その声域に魅力があった。
女は手にハンカチを握っていた。スカーフのように薄い生地には真っ赤な薔薇が描かれている。女が飲んでいるコーヒーの香りがほのかにする。』
日比谷公園のベンチに一人で座っていると、いろいろなものが見えます。そして、人は、見ていないようで、いつも、何かを見ているものです。
この小説では、ぼくは、ベンチに一人で座って、公園にいる人たちを見ています。ところが、そのぼくを見ていた一人の女がいたのです。
日比谷公園での二人のコミカルな会話が、人の心を写し出す鏡のよう感じられます。「心字池」は、「心」という字の草書体をもじった形の日本庭園の代表的な池です。公園は、人の「心」のあり場所でもあるのでしょう。
あなたは、公園で何を見ますか?