「ブラックボックス」

ブラックボックス

砂川文次

文藝春秋3月号

 

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太山寺別塔安養院 冬のお寺は、寒々しいです。木に緑が戻ってくるのには、まだまだ、時がかかります。といっても、暦のうえでは、「雨水」。雪が雨に変わるのですが、低気圧の影響で、日本海側は雪、神戸は、雨です。

 

早いものです。もう、北京冬季オリンピックが閉幕を迎えます。「いろいろ」ありましたが、日本人の活躍、お疲れ様でした。そして、選手のみなさん、ありがとう。

 

「いろいろ」のなかでも、「白熊さんち」のドーピング問題は、真実はどこにあるか分かりませんが、少なくと、15歳の少女が、薬物を服用していたのは事実でしょう。

 

この事実に後ろめたい大人たちがいるのであれば、その大人たちは、「ブラックボックス」にしないで、ドーピングの根絶のための動きを強めるべきでしょう。

 

また、「白熊さん」が、「戦争をやりたがっている」と西側が騒ぎ、「西側が戦争を煽っている」と「白熊さん」が反論します。問題の真相は何か?これも、「ブラックボックス」ですか?

 

いずれにしても、「ドーピング」は、やめようよ。「戦争」も、絶対に、やめようよ。

 

ここまでが、余談です。いや、余談ではなく、「老人の主張」でした。

 

さて、第166回芥川賞受賞作「ブラックボックス」です。

 

作者の砂川文次さんは、現在、地方公務員。元自衛官。「坂の上の雲」を読んでから、自衛隊入隊を希望したそうです。司馬遼太郎は、読みつくしたとのこと。

 

主人公の「サクマ」は、メッセンジャーの仕事をしています。「メッセンジャー」とは、バイク便・・・自転車で、ビルの間を駆け抜け、たとえば、会社から他の会社へのメール便を届けるお仕事。

 

メッセンジャーは一生続けられる仕事じゃない。このことはサクマにとっても結構重大な問題として頭をもたげてきている。でもメッセンジャーをしているとメッセンジャーは一生できないという問題を直視せずに済む。ペダルを回して息を上げて目を皿にして街中を疾走している瞬間を重ねることで一生を考えずに済む。』

 

「ちゃんとしたい。」サクマは、そう思っていた。でも、「ちゃんとする。」って、どういうことだろう。サクマは、わからなかった。

 

メッセンジャーは、一人事業主。家を転々としていたので納税していなかった。自宅に税務署員がやってきたが、サクマは、見境なく税務署員に暴行してしまった。そのあげく、刑務所行きとなる。

 

『刑務所のいいところは大体が分かりやすいことだ。でも、悪いところもある。刑務所特有の悪いこともあれば、世間にはびこる悪いこともある。この靄のように手触りがなくてどういう風に広がったか分からない人間関係とか人間に対する一方的な評価とかがそれだ。一度広がるともう自分ではどうしようもない。今にして思えば、これに順応することがまずちゃんとすることの第一歩だったかもしれない。』

 

サクマは、人間関係が、うまくいかない人のようです。怒りにまかせて、すぐ、手が出てしまいます。でも、本人は、暴力をふるっているという意識ではない。メッセンジャーの仲間とも、刑務所の同房者とも。

 

人は、みな、同じではない。サクマのような人も、いる。「ブラックボックス」は、サクマを通じて、人の息苦しさを感じさせる。と、ぼくの感想です。