「花桃実桃」

tetu-eng2012-03-04

花桃実桃」
中島 京子
中央公論新社
2011年2月25日発行
1,500円+税(神戸市立西図書館)

やれやれ、今年も、花粉症の季節の到来です。例年より、やや遅くでしたが、2月の中旬ごろから予防薬を服用して、準備万端のつもりでした。が、この頃、はくしょんとクシャミ、鼻はグシュグシュ、瞼は二重、という例年の症状が出てきました。体までだるくなって、会社では、昼食後に、転寝してしまう始末です。何とも、困った季節ですね。歳とともに鈍感になると思っていましたが、まだ、反応しているというのは、細胞が若いのかな、なんて、適当な解釈をしながら、毎日、「はっくしょん」「はくしょん」です。

『郊外へ走る私鉄の高架沿い、一方通行をL字に折れて始まる急な上り坂の中腹に、脇に入る小さな階段があって、それを上った狭い路地の、袋小路のどんづまりに、アパートはある。
路地との境界に、三十センチ四方、高さは子供の背丈ほどの煉瓦の柱が二本突っ立っていて、その片方に埋め込まれた木片に「花桃館」と達筆で書いてあった。
アパートの入り口に植えられた花桃の木も、まっすぐ上を向いて伸びる枝に白い花をちりばめ、狭い植え込みからも黄色の連翹(れんぎょう)がこぼれるように咲き、その脇には鈴なりのドウダンツツジが続いていた。』

花村茜は、父親の花村桃蔵の遺産として相続した「花桃館」に、管理人として住み込むこととなります。「花桃館」は、3階建てで部屋が九つあり、そのうち、101、201、301の三つは2DKで、五十平米と、若干広めですが、他の部屋は単身用のようです。101には、茜。102は、空室。103には、桃蔵の愛人だった李華ばあさん。201は、三人の男の子がいる妙蓮寺さん。202には、年寄りの夫婦ものがいると判っているはずなのに、なんだかぼんやりしている。203は、高岡日名子さん、四十二歳。301は、空室でしたが、クロアチア人の詩人が入居。302は、いつもウクレレを掻き鳴らしている玉井ハルオ。303は、いつもハンチングをかぶっている槌田さん。小説は、この「花桃館」の管理人の茜と風変わりな住人たちとの人間模様。

『きれいな音ね、と茜は言った。
 ウクレレは奥深いんだ、見かけかわいいけど凄い奴なんだ、と、玉井ハルオは抱えている小さな楽器を撫でる。
「知らない?こうだくみの『夢のうた』って曲なんだけど、B面が歌詞違いの『ふたりで・・・』ってので、そっちは歌詞がばかみたいに能天気で、ぜんぜん好きになれない」
「曲は同じなのに?」
「だって、『夢のうた』は、なんというか、こう、二人がいて、もう一人が、いなくなっちゃって、そんで、せつなくて」
 茜が口を真一文字に結んで虚空を見つめていると、四十代向けには説明しづらいと思ったか。頭を振りながら玉井ハルオはウクレレを胸のあたりに持ち直し、また別の曲を、ポロポロ零れるような音をさせて弾き始めた。』

 アパートの管理人の物語は、数年前に、「千日紅の恋人」(帚木 蓬生著)を読んだことがあります。この小説と同じように、アパートの住人との人間模様です。構成は、ほとんど同じです。中島京子さんは、「小さいおうち」で2010年直木賞を受賞していますが、うむ、直木賞作家としては、ちょっと、駄作だったかもしれませんね。ウクレレをアイテムに使っているのは、共感が持てます。実は、私も、ウクレレにハマっているから。今月の課題曲は、「チャコの海岸物語」サザンのソロ弾きです。