「優駿 (上)(下)」

tetu-eng2013-12-01

優駿 (上)(下)」
 宮本 輝
 新潮文庫
 平成元年11月25日発行
 427円(税別)

 最近、勝ち馬投票から遠ざかってしまいました。春競馬までは、そこそこ、買っていたのですが、夏競馬から、少し、離れていたら、秋競馬の本格シーズンに入って、馬の状況が分からなくなり、分からないと、投票できなくなるということで、すっかり、競馬新聞も買わなくなり、当然、競馬放送も見なくなりました。競馬歴、約四十年の終焉を迎えようとしています。銀行の特定口座には残高が残ったままなので、どうなるのでしょうか?まあ、過去にも、こういった事態はあったので、また、何時か、復活するでしょうから・・・。要するに、競馬倦怠期なのでしょうか?
 そこで、なぜか?名作「優駿」です。読んでいて、ふと、この本、読んだことあるな!というのが、第一印象。主役の馬の名前「オラシオン」。この馬名が記憶に残っているのです。実在した馬なのか、どうか?分かりませんが、読んでいる途中で、「オラシオン」・・・「うん・・うん・・」ということで、「あっ、この本、読んだことあるネ」。「オラシオン」が登場するのが、上巻の半分以上読み進んだところなので、今更、引き返すこともできずに、一気呵成に、最後まで読みました。僕は、宮本輝さんや、浅田次郎さんの作品が、読みやすいですネ。年代かな?何だか、読んでいて安心感があるんですよネ。

『正常分娩の場合、仔馬の体はまず前脚の日本が出て来るのである。その次に鼻面が見え、やがて顔から首と出て来て肩が膣口に引っかかる。人間が手を貸してやるのはそれからだった。
「バンザイの恰好で出て来ただろう?安産の証拠だよ」』

 舞台は、北海道の静内の小さな牧場「トカイファーム」。母馬はハナカゲ。ハナカゲから生まれた「クロ」(まだ、正式な名前はない)。「クロ」は、「トカイファーム」の牧場主渡海千造にとって、また、若き後継者である息子博正にとっても、期待のサラブレッドでした。人間が作り出したサラブレッドは、血統が、その馬の能力(もちろん、競走馬なので走る能力)を大きく左右します。「クロ」は、「トカイファーム」の命運をかけた牡の仔馬です。この小説は、「クロ」、将来の「オラシオン」の成長と「クロ」に関係する生産者、馬主、調教師、騎手の物語です。ちなみに、馬主は、和具工業の社長和具平八郎、ある事情により、娘の久美子に権利を譲りました。その事情も、小説の一節です。

『「クロの名前が決まったよ」
 と久美子は言った。
「へえ、どんな名前?」
オラシオン
オラシオンかいい名前じゃねえか」
 博正はハンドルを握って前方に目をやったまま、
「第四コーナーをまわってオラシオンが六番手から四番手にあがって来た。さあ直線に入った。まだたずなは動きません。しかし先頭の馬の脚色が少し鈍ってきたか。オラシオンが出て来た。東京競馬場の直線の坂を、いまのぼってきました。やっとたずなが動き始めた。オラシオンが伸びる。オラシオンが伸びる」
 博正はアナウンサーの実況中継を真似て、オラシオンオラシオンと叫んだ。そして、
オラシオンって、どんな意味なんだ?」
と訊いてきた。
スペイン語で祈りっていう意味よ」』

 このあたりで、読んだことがあるって気付いたのですね。そして、また、悪い虫が起きて、阪急電車今津線に乗って、「仁川」まで、ボチボチと出かけたくなるのですね。そこには、サラブレッドが走っているから、性懲りもなく。