「暗幕のゲルニカ」

tetu-eng2018-12-02

「暗幕のゲルニカ
原田 マハ
平成30年7月1日第1刷
新潮文庫

『芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ。 パブロ・ピカソ

ピカソの「ゲルニカ」といえば、美術に疎いぼくでも知っています。何が書いてあるのかサッパリわからない抽象画とでもいうのでしょうか?これが絵か?と思ってしまいますが、この作品には、とんでもない歴史があったことを、この本で知りました。「驚き」です。

まず、「ゲルニカ」というタイトル。「ゲルニカ」は、スペインの地方都市だそうです。1936年、フランコ将軍によって引き起こされたスペインの内戦に呼応して、1937年にドイツのナチスがこの都市を空爆したらしいです。フランコのクーデターは、ドイツとイタリアのファシスト政権の支援を受けて、ついに、ゲルニカに無差別攻撃を仕掛けたのです。

当時、パリで活動していたピカソは、母国スペインの惨状に憤り、パリ万国博覧会のスペイン館に展示する絵画として「ゲルニカ」を描きあげたそうです。まさに、ピカソ反戦に対するメッセージだったのです。

『目も前に、モノクロームの巨大な画面が、凍てついた海のように広がっている。
泣き叫ぶ女、死んだ子供、いななく馬、振り向く牡牛、力尽きて倒れる兵士。
それは、禍々しい力に満ちた絶望の画面。
瑤子は、ひと目見ただけで、その絵の前から動けなくなった。真っ暗闇の中に、ひとり取り残された気がして、急に怖くなった。』

この小説のヒロインは八神瑤子。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーター。2001.9.11 ワールド・トレードセンターの悪夢で最愛の夫を失った。その後、国連本部において、アメリカによるイラク空爆を宣言するアメリ国務長官の背後にある「ゲルニカ」のタペストリーに暗幕がけられていた。何故?

ゲルニカ空爆の悲劇、それに対する非難。ファシズムへのあからさまな抵抗、反戦。うつくしいモデルも、風光明媚な風景も、そこにはない。寓話も、神話も、物語も。画面を支配しているのは、戦争がもたらした闇と、空爆が引き起こした惨劇。これほどリアルで、メッセージ性に富み、怒りと悲しみに満ちた絵画がかつてあっただろうか。』

瑤子は、MoMAで「ピカソ展」を企画して、その目玉として、スペインから門外不出となっている「ゲルニカ」の展示誘致に向けて奮闘します。しかし、そこには思いもよらない障害が・・・・。瑤子の熱い思いは遂げられるのか???まさに、原田マハの真骨頂の「楽園のカンヴァス」に続くアートミステリーです。

3.5m×7.8mの巨大なキャンバスに描かれた「ゲルニカ」。写真でしか見たことがないので、まさに、実物を見たら圧倒されるでしょう。しかも、その制作秘話を知っていれば、さらに、見る目が違ってきます。

解説は、池上彰さんです。

『アートには、どれだけの力があるのか。戦争を阻止する力はあるのだろうか。この作品は、読者に究極の問いを投げかけます。』