キツネの値段

野の花

昨日、Yahoo!ニュースを見ていて、「キツネを避けて高速道路で事故死 旧道路公団らに5100万円賠償命令」の記事が掲載されていました。今日の新聞の朝刊に詳細な記事が掲載されているかなと思い、注意して読みましたが、新聞の朝刊に記事はありませんでした。Yahoo!ニュースの記事は、次のとおりで、詳細な事実関係などは不明ですが、道路という公物を管理している団体に損害賠償責任を認定しているようです。

北海道苫小牧市道央自動車道で2001年10月、道路に飛び出してきたキツネを避けようとしてスリップし、後続の車両に追突され死亡した札幌市の女性(当時34歳)の両親が、東日本高速道路(旧日本道路公団)などに損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が18日、札幌高裁であった。
 末永進裁判長は「キツネが侵入できる状況にあったことは、高速道路として通常有すべき安全性を欠いている」として、後続車両の運転手だけの責任とした1審・札幌地裁判決を変更し、同社と運転手に対し、総額約5100万円の支払いを命じた。
 事故が発生した道央道苫小牧東−苫小牧西IC間は、キツネが頻繁に道路を横切り、同社は「動物注意」の道路標識と有刺鉄線を設置していた。末永裁判長は、「運転者が動物の出現を予想して低速で走行することを期待することは現実的でない」と指摘。有刺鉄線も「キツネなど中小動物の侵入を防ぐのには不十分」とした。

さて、少し法律の基礎的な話をすると、民事上の責任には、大別して、契約責任と不法行為責任があります。前者は、契約という特別な関係を前提として、契約の不履行などにより損害が発生した場合に、その損害の賠償責任を問題とします。後者は、広く一般的に特別な契約関係がなくても事実関係において損害が発生した場合に、その損害の賠償責任を問題とします。
今回の事案は、後者の事案だと思います。不法行為責任は、民法709条に「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と一般的な規定があります。ただし、危険物責任として民法717条に「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と特別な規定もあります。この両条文の違いは、後者には「故意又は過失によって」の規定がないので、一般には無過失責任と言われています。同じ考え方の規定が、国または公共団体に適用される国家賠償法にも規定されています。
今回の事案は、民法717条若しく国家賠償法が適用されていると思いますが、この規定によると、無過失責任のため、他人に損害が発生したときは、工作物の占有者に、損害賠償責任が発生します。しかし、この場合でも、「設置又は保存に瑕疵があること」が要件となっています。これは、人間の意思としての故意または過失ではなく、物理的に、この事案では、道路に瑕疵(要するに事故につながる欠陥)があることを要件としているのです。
それでは、道路に瑕疵があったと言えるのかということが、焦点になってきますが、キツネが頻繁に横断する事実が認知されていることから、他の道路、例えば、東名・名神以上の動物の侵入防止措置が必要であるというのが裁判所の判断だと思います。通常の「動物注意」の道路標識と有刺鉄線を設置だけでは、当該事案では、不十分であるということです。それでは、瑕疵の程度が他の道路でも求められるかというと、「道央道」の特別な事実の認定によるものと考えられます。
しかし、高速道路の管理者にとっては、ちょっと、厳しい結論かもしれません。そもそも、高速道路は、山の中を切り開いて建設するため、けもの道を切断してしまうことが多くあります。そのため、けものの横断は、往々にして発生するものあり、ロードキルという一種の環境の問題にもなっています。これを、完全に回避しようとすると道路をシェルターで覆うしかないと思います。キツネには、かわいそうですが、ドライバーはそれを避けるのではなく、後続車両との安全を予見すると、キツネを避けるのは、安全運転義務違反と言うこともできます。もちろん、そう言った主張はしたのだと思います。
いずれにしても、人間と自然の共生の中で、人間同士のトラブルであり、一番迷惑を被っているのはキツネなのでしょう。