「はじめての文学」

はじめての文学

「はじめての文学」
小川洋子
文藝春秋
平成19年6月15日発行
1238円(神戸市立図書館)

昨年11月に「はじめての文学」シリーズの宮部みゆきさんの短編小説を紹介しましたが、図書館の新着本に小川洋子さんの本を見つけたので、早速、借りました。このシリーズは、全12巻が予定されており、お二方のほかに、村上春樹村上龍よしもとばなな宮本輝浅田次郎川上弘美重松清桐野夏生山田詠美林真理子の各作家の方が執筆しています。そうそうたるメンバーと言うべきか、中堅のメンバーと言うべきか、文藝春秋社の企画に賛同したメンバーでしょう。ただし、左程、ヒットしているシリーズではないようです。
最近の流行りの本は、芸人さんが出版したものが多いようです。とにかく、読書習慣というものが失われて、こ難しい本を読むよりは、コミックを、コミックに飽きたら芸人さんの笑える本をという風潮なのでしょう。兎に角、子供の時に、読書の習慣を身につけることが肝要です。ちょっと前に、新聞の記事で読みましたが、小学校で朝の読書の時間を始めたら、賛否両論、どちらかというと否定的な意見が多く、止めてしまったという内容でした。読書は、学校が強制するのではなく、家庭教育の一つだと思いますが、親が本を読まなければ、子供は読みません。
我が家に目を移すと、私は、本を手放すことができない性ですが、それでも、子供は、ファミコンの方が面白いのか、とうとう、本好きにはなりませんでした。我が家でそうであるならば、他は推して知るべし。我が家の状況で、割り切ることはできないでしょうが、おおむね、当たらずとも遠からずでしょう。本の販売数量が、年々、減少しているということですし、また、町の本屋さんが、減少しているということです。毎年のように、秋の読書週間には、読書に関する記事が新聞紙上を賑わしますが、一向に、改善はされないでしょう。
さて、小川洋子さんですが、2006年に「博士の愛した数式」がベストセラーになり、映画化もされました。当時、私も書店で購入して、大変に面白かったので、息子に勧めましたが、読んだかどうか、定かではありません。「はじめての文学」に収録されているのは、「冷めない紅茶」「薬指の標本」「ギブスを売る人」「キリコさんの失敗」「バックストローク」の5編です。最初の3編は、宮沢賢冶の「注文の多い料理店」のようなイメージで、児童文学に近いのではないでしょうか。あとの2編は、おそらく一人称の「私」は、小川さん自身のことだと思います。巻頭の「冷めない紅茶」は、出だしはちょっと入りにくい内容でしたが、やがて、読者に、「私」の同級生K君とK君の奥さん(「私」とK君の中学時代の図書館の司書)は、おそらく、「私」の前に現れた黄泉の世界の人たちであることを想像させるという巧みな構成になっています。読み終わって、この小説の出だしを読み返すと、小説全体が凝縮されています。

その夜、わたしは初めて死というものについて考えた。風が澄んだ音をたてて凍りつくような、冷たい夜だった。そんなふうに、きちんと順序立てて死について考えたことは、今までなかった。