「生麦事件 上・下」

生麦事件

生麦事件 上・下」
吉村 昭
新潮文庫
平成14年6月1日発行
各514円

9月14日(日本暦文久2年8月21日)は、日曜日で、快晴であったのでその日に川崎大師へ行くことに決めていた。マーシャルとクラークは上海から運んでこさせたアラブ系の馬をそれぞれ持っていたが、リチャードソンとマーガレットの乗る馬はなかったので、マーシャルは商売仲間であるウイリアム・G・ビアソンに相談した。ビアソンはリチャードソンにアラブ系の馬、マーガレットには日本馬を斡旋し、さらに自分の馬を世話をする日本人の別当2人をつけてくれた。

事件は、ここから始まりました。生麦村で、薩摩藩島津久光の行列を乱したイギリス人4人が、薩摩藩士によって殺傷されます。日本史の授業で学習した生麦事件です。吉村氏は、明治維新生麦事件から始まったと説明しています。生麦事件が1862年、明治維新が、1868年、生麦事件から6年後のことです。
生麦事件以前から明治維新までの年譜を主な出来事で追ってみます。
生麦事件以前
1853年(嘉永6年)ペリー来航
1854年(安政元年)日米和親条約締結
1859年(安政6年)安政の大獄
1860年(万永元年)桜田門外の変
この小説というか、ほとんど記録小説という言葉があれば、記録小説というべきでしょう。生麦事件に関する文献を調査して、事実を克明に分析しながら、小説を読んでいるというより、生麦事件という殺人・傷害事件の記録調書を読んでいるようで、小説の面白さからはすこし違うのかなという感想です。巻末には、小説にはめずらしく参考文献が掲載されています。
生麦事件以後
1863年(文久3年)薩英戦争
1864年(元冶元年)下関戦争、禁門の変蛤御門の変
1865年(元冶2年・慶応元年)第1次・第2次長州征伐
1866年(慶応2年)薩長同盟
1867年(慶応3年)大政奉還、王政復古
1868年(慶応4年)鳥羽伏見の戦い江戸城無血開城彰義隊などの戦い
生麦事件から始まる明治維新までの歴史的出来事が、この小説のテーマであり、主人公は、薩摩藩島津久光小松帯刀、西郷吉之助、大久保一蔵など、もちろん、下巻からは、長州藩毛利敬親木戸孝允高杉晋作伊藤俊輔井上聞多など歴史上の人物が多彩に出演します。
特に、薩英戦争、下関戦争を経験して、外国との軍事力の差を肌で感じた薩摩・長州両藩が攘夷から倒幕・開国へと藩論を急展開していく過程を吉村氏の綿密な調査した資料に裏打ちされた歴史感で、教科書に書かれていない歴史の事実を知ることができます。