「恋せども、愛せども」

「恋せども、愛せども」

「恋せども、愛せども」
唯川 恵
新潮文庫
平成20年7月1日発行
590円

祖母、母は、金沢の主計町で小料理屋を営み、理々子は、アルバイトをしながら東京で脚本家を目指し、雪緒は、名古屋の不動産会社に勤めるキャリアウーマンです。理々子と雪緒は同じ年28歳の姉妹ですが、双子ではありません。血のつながりはないのです。そして、祖母と母も、血のつながりがありません。祖母、母と理々子、雪緒も、血のつながりはありません。しかし、この4人は家族なのです。登場人物のこの奇妙な関係は、小説のつかみとして気になります。
理々子と雪緒に母から電話があり、久しぶりに2人は、金沢に帰省します。そこで、2人は、祖母と母から、驚きの話を聞かされます。

『「それで話って?」
 湯呑を両手で包みこんだまま理々子は尋ねた。
 「ああ、それは」
 母が困ったように祖母に顔を向けた。
 「そうや、桜餅があるがやけど食べる?」
 祖母がはぐらかすように答える。
 「ほら、篠から言わんかいね」
 祖母が母を促すように肘でつつく。
 「そんなの、おかあさんから言ってもらわんと」
 またもや、母が返している。
 「やだ、何なのよ、言ってよ」
 理々子の催促に、母はようやく覚悟を決めたように、着物の襟元を直した。
 「あのね」
 そして、少々上擦った声で言った。
 「実はね、おばあちゃんと私、ふたりとも結婚することにしたが」
 思わず声をあげた。
 「ええっ」』

長編小説ですが、ほとんどが会話形式で構成されているので、テンポよく読み下していくことができます。血の繋がっていない親子三代の家族への思いやりや家族への愛情、そして、それぞれの恋愛や仕事、さらに、理々子と雪緒のそれぞれの出生の秘密、祖母と母の結婚の行方、唯川さんの小説の真骨頂です。
「あとがき」を壇ふみさんが書いていますが、実は、この小説 テレビドラマとして放映されていたようです。祖母(音羽)役に岸恵子、母(篠)役に壇ふみ、理々子役に京野ことみ、雪緒役に長谷川京子の配役です。
檀さんは、小説を読む前に配役を教えるのは、これから読む人のために控えると言っていますが、敢えて、配役をお教えします。小説は、まっさらな状態で読むのもいいですが、登場人物をドラマで演じる人をイメージしながら読むのは、理々子のように脚本家になったような気分でおもしろいのでは、と思うからです。