「がらくた」

がらくた

「がらくた」
江國香織
株式会社 新潮社
2007年5月20日発行
1500円(神戸市立図書館)

『彼女は異国的な顔立ちをしており、手足が細くて長いので、西洋人、もしくはその血の混ざった少女に、見えなくもない。でも私には、彼女が日本人であることが1日でわかった。小さなビキニをつけた身体のおうとつの少なさや色の白さ、頭にのせたサングラスの、バービー人形じみた洒落加減、砂浜に、毎朝無造作に抱えてくる鞄。』

彼女のことを「ミミちゃん」と呼んでいたが、本名は「美海(ミウミ)」。リゾート地のプーケットで、私(原柊子)と私の母(津田桐子)は、彼女が、海辺で佇んでいるのを見かけた。小説は、このプーケットのシーンから始まります。
小説は、4編に分かれており、1編と3編の「私」が、柊子。2編と4編の「私」が「美海」と、「私」が交互に交替します。2編に読み進んだときに、少し、「あれ?」と思いますが、この1人称が「編」で交替するのが、この小説の特徴です。

『夫と出会う前にも、ひとを好きになったことはあった。恋人のいる状態は、いない状態よりずっと愉しかった。その都度心から愛したし、いまもたぶん愛している。私は思うのだけれど、もしほんとうに、恋愛関係以外のものを望まずにいられるのなら、恋人をつくるのは簡単なことだ。私の時間と私の肉体、嘘いつわりのない言葉、そして好意と敬意。私に与えられるのはそれだけだったが、その五つを与えられて、満足しない男性はいない。』

「がらくた」というタイトルの意味を考えましたが、この小説の登場人物のいろいろな恋愛。まさに「がらくた」のような恋愛を表現したのでしょうか?恋愛は、男と女の人間関係の発露のひとつのパターンだと思いますが、でも、この小説の恋愛って、やはり「小説の世界だよね。」と思ってしまいます。一言で云えば、漫画的な感じがします。小説で表現する恋愛には、もっと、奥ゆきがあって、また、もっと、人間的な葛藤が描かれなければ、言葉の羅列にしかすぎません。
正直な感想ですが、江國香織さんの小説ってこんな感じでしたか?彼女の小説では、直木賞受賞作の「号泣する準備はできていた」。これは、文庫本で16ページ程度の短編ですが、それと、文庫本に収録されていた数編を読んだにすぎません。
初めて、書き下ろし長編の作品を読みましたが、「う〜ん」といった感想です。彼女のファンには、申し訳ありませんが、読んでいて、まったく、彼女の世界に入っていけない。小説の技術的なことは、よく解りませんが、表現、文章、構成など、どれをとっても優れた作品とは言えないのではないでしょうか?
もちろん、小説家の作品が、すべて秀作であるということはありません。また、何らかの賞を取ったからと言って、その作品が、大衆に受け入れられるということもありません。昔は、芥川賞直木賞の受賞作と言えば、ベストセラーになり、その作家さんの将来は、前途洋々たるものがありました。現代は、芥川賞直木賞作家といえども、その後、またく、売れないこともあります。
江國さんは、単行本も沢山、出されていますし、人気女流作家のお一人でしょうが、この小説は、残念です。