「帰省―未刊行エッセイ集―」

帰省

「帰省―未刊行エッセイ集―」
藤沢 周平
文藝春秋
2008年7月30日発行
1600円(神戸市立西図書館)

藤沢周平さんは、平成9年に70歳でお亡くなりになっています。その周平さんの未刊行のエッセイ集です。未刊行と云っても、新聞、月刊誌、週刊誌などに掲載したエッセイを集めて単行本として発行したものです。いわゆる遺稿ではありません。作家が、亡くなったあとにも、こういった形で、本が刊行されるのは、その作家にとって、本意であるかどうかは解りません。あるいは、読み捨て御免の気分で書いたエッセイを集めて、出版されることは、不本意かもしれません。
こういった作家のエッセイは、ときどき、読みますが、おおむね題材は、小説の取材であることが多いのですが、実は、それを読むことにより、「ああ、あの小説は、こういった取材によるものか。背景は、こうだったのか。」などと、その小説を書くための裏話が開陳されるところに興味があるのです。困ったものは、小説家が政治向きのこと、世間の動きなどを評論家のように書いている雑文は、よろしくないのです。周平さんも、そう書いています。まったく、同感です。
周平さんとは、相対称な小説家が、司馬遼太郎さんです。司馬さんの晩年は、ほとんどの作品が、小説ではなく、評論になってしまいました。歴史小説を書くにあたっての「司馬史観」なる歴史観を開陳するのは、まったく、結構なことではありますが、「二十一世紀に生きる君たちへ」これなんぞは、小学校の教科書にまで掲載されており、司馬哲学となっています。まあ、これは、これで、歴史作家が哲学者への道を歩んだ如くということでしょう。ただし、周平さんは、あくまで、小説家にこだわったということです。
周平さんは、庄内平野鶴岡市のご出身です。最近の天気ニュースでは、大寒波により、鶴岡に大雪が降ったという映像を見て、随分と、雪深い土地のご出身なのだと、あらためて、知ることができました。戦後、鶴岡中学校(現鶴岡南高校)を卒業後、苦学しながら、山形師範(現山形大学)を卒業し、教員生活、業界紙の記者などを勤めながら、著作活動を続けていたそうです。「暗殺の年輪」で直木賞を受賞後は、人気作家としての地歩を固められました。
映画でも、「たそがれ清兵衛」「蝉しぐれ」「武士の一分」などのヒット作品の原作者です。映画の印象からも判るように、人情味のある作風というか、周平さんの小説には、威勢良さや、突っ張りや、格好よさなどは一切ありません。あるのは、「人の生活」です。それが、周平さんの小説の真骨頂だと思います。
そのなかで、周平さんの作風とは、ちょいと風変わりな小説があります。「市塵(しじん)」です。私の本箱から出してきました。実は、私、この小説を読み切っていません。1989年の発行なので、ちょうど20年前に購入した本?(あるいは、実家から持ち帰った本)ですが、新井白石を題材とした小説だったと思います。何故、読み切れなかったか?おそらく、私が思う周平さんらしくなかったのではないでしょうか?今、また、本箱から取り出して、さて、来年にでも、チャレンジしてみましょうか。