「花のあと」

花のあと

花のあと
藤沢 周平
文春文庫
1989年3月10日第1刷
2010年2月1日第43刷
505円

週末は、スナック「A奈」で、ウイスキーを飲みながら、藤沢周平の世界に思いを馳せました。「A奈」のウイスキーはニッカの「竹鶴」。そういえば、『ニッカ竹鶴21年ピュアモルト』は、2009年10月にイギリスで開催された「第14回インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ」において、ウイスキー部門でカテゴリー最高賞となる「トロフィー」を受賞したそうです。
私のキープしているものは、そんな上等ではなく12年ものですから、ちょいと、お味は違うのかも知れません。最近は、そのウイスキーを水割りではなく、ソーダーで割ります。いわゆる「ハイボール」ですが、そのソーダーにこだわって、「ペリエ」(南フランス産)というスパークリング・ナチュラルミネラルウォーターを愛用しています。
話は逸れてしまいましたが、この小説は、いつもの周平さんの軽快な短編時代小説です。周平さんの時代小説は、肩もこらずに安心して読めます。これが、歴史小説とは違うところです。この短編時代小説のひとつ「花のあと」は、映画化されて、今、若手女優で人気のある北川景子さんが初の時代劇への挑戦だそうですが、残念ながら、私は、映画は見ていません。周平さんの短編小説を映画化した「武士の一分」の壇れいさんも綺麗な女優さんだと思っていたら、最近、ビールのコマーシャルなどでよく見かけるようになりました。「花のあと」もDVDで観賞してみたいものです。

『「卒時ながら・・・」
とその声が言っている。以登はおどろいて振りむいた。長身の若者が立っていた。もう三の丸の男たちが来たのかと、思わず身構える気持になったが、違った。
 男はさっぱりはしているが粗末な木綿着を身につけ、羽織を着ていなかった。部屋住みの若者らしい。男はとっさに身構えた以登の気配をさとったらしく、なだめるように軽く両手を挙げた。
「間違えたらお許しいただきたいが、寺井さまのご息女ではありませんか?」
「はい」
と以登は答えた。家の外で男に声をかけられたことなどないので、棒立ちになっている。
「それがし羽賀道場の者でござる。」』

『とその声が言っている。』という表現は、周平さんならではの技法ではないでしょうか。普通ならば、『と声をかけられる。』ではないでしょうか。この一文で、横からか後ろからか、ひょいと声をかけられたという情景が思い浮かべられます。何気ない、このような情景の表現方法が、小説全体のやわらかさを読者に伝えることになるのでしょう。
以登は、女だてらに幼いころから剣の修業に励み、それなりの使い手にまで成長しました。ある日、以登の婚約も整い、父は、丹精して育てた娘の剣の腕前を試したくなります。そこで、羽賀道場で試合を行う段取りとなりました。これから先は、藤沢周平の世界へ。