「婚約のあとで」

婚約のあとで

「婚約のあとで」
阿川 佐和子
株式会社 新潮社
2008年2月25日発行
2008年5月20日5刷
1600円

へえ〜。5刷まで増刷しているってことは、結構、売れているということですね。阿川さんは、小説家と言うよりは、どちらかと言うとエッセイストの方で著名です。テレビでは、ニュースキャスターで活躍後、「TVタックル」の司会者として、ビートたけしと一緒に政治家に対して辛口の突っ込みを入れている女傑といった感じでしょうか?1953年の生年なので、私と同級生と言うことになりますが、彼女は、まだ独身なので、きっと、父君の阿川弘之さんは、ご高齢なのに「やきもき」されているでしょう。おおきなお世話かな。
話題は逸れますが、阿川弘之さんは、今年、卒寿(90歳)を迎えられるのに、まだ、まだ、お元気に文芸春秋に「葭の髄から(よしのずいから)」という随筆を連載されています。「葭の髄から」は、確か、文庫本にもなっていたと思います。8月号は、「老残の身」と題して、自らの老いを嘆いておられます。今、100歳問題が世間をにぎわしていますが、長寿大国である日本としては、これこそ、嘆かわしいものです。

『私自身は目下八十九歳六カ月、此のままだと今年の暮に卒寿の誕生日を迎えるのだが、仮にもめでたいとは思わない。長生きし過ぎたと思っている。それが、凡ゆる事をめんどくさく感じる最大原因かも知れない。
 我が師志賀直哉は、晩年、
 「不老長生といふ、不老で長く生きられるなら話は又別だが、老いだけ残って、ただ長生きといふのはお断りだ」
 よくそう言っておられた。』

話を本題である阿川さんの小説「婚約のあとで」に戻しましょう。婚約したのに彼氏はニューヨークに転勤。時差8時間の遠距離恋愛となった村松波(29歳)。化粧品会社の商品開発部の社員として、新規開発したファンデーションの仕事が充実してきて、恋と仕事の板挟み。これは、よくある話。この小説は、村松波の周辺の6人の女性のそれぞれの恋と仕事が描かれています。長編小説のようですが、7人の女性の恋と仕事の短編でもあり、その短編の主役が、村松波と繋がっています。
碧(あお)は、大学の海洋生物研究室の研究員で、波の妹です。ミジンコの出産に夢中ですが、この妹が波もビックリの恋の大騒ぎに。真理は、売り出し中のインダストリーデザイナー。波の開発したファンデーションのパッケージをデザインします。恋多き女性。優美は、専業主婦ですが、波の友人の亜里奈の誘いで、趣味のビーズアクセサリーの創作作家になりますが、その販売を波の会社のアンテナショップが担当(複雑ですね。)。凩(こがらし)さんは、真理の事務所の秘書ですが、ちょっと、わけあり。宙(そら)は、波の父親の友人の娘。幼いころから姉妹のようにして育ってきました。眼が不自由な宙の恋は、ちょっと、涙。花も専業主婦ですが、碧の研究室で事務員のアルバイト。ひょんなことから、碧の道ならぬ恋のメッセンジャーに。さて、さて、7人の女性の恋と仕事の行方は。

『ニューヨークからの帰りの飛行機の中で、七十四歳の老紳士と隣り合わせた。
「私のような女性って、どういう女ですか」
 ついでに聞いてみる、
「なんというか、グッてくるっていうか。これは生物的な反応でね。子供の頃、初めてステキな女性を見て、オチンチンが立っちゃった。あのときの感覚とおなじだね。いい女かどうかはひと目見りゃ、わかりますよ。女性だってね、一人のパートナーに束縛される必要はないんです。もったいないでしょ。あなたも結婚をできるだけのばしたらどう?彼が早く結婚したがっているの?」
「いえ、ぜんぜん」
「じゃ、いいじゃないの」』