「ラプソデイ・イン・ラブ」

tetu-eng2011-06-26

「ラプソデイ・イン・ラブ」
小路 幸也
PHP研究所
2010年11月4日第一刷発行
1500円(神戸市立西図書館)

昨日、私の馴染みとしていたスナック「A奈」の閉店のお別れ会がありました。最近の景気動向をみると、「踊り場からやや回復基調」なんて、暢気なことを言っている日本銀行。一体、どういった調査をしているのか?リーマンショック以降、3・11の東日本大地震福島原発問題の影響もあり、世の中は、すっかり景気が冷え込んでしまい、特に夜の商売は、閑古鳥状態。踊り場どころの状況ではありません。「A奈」の閉店も、そういった経済状況の影響であることは、間違いありません。私が、この店に通うようになって、10年。週末の癒しの場所を提供してくれましたが、残念です。取りあえず、10年のお付き合いに「ありごとう」と言って、締めくくります。
「ラプソデイ・イン・ラブ」日本語に訳すと「愛の協奏曲」でしょうか?タイトルのイメージでは、恋愛小説かと思いますが、いえいえ、そうではありません。家族愛をテーマにした小説です。小説の内容は、カバー絵の映画カメラに意味があります。この小説は、ちょっと、変わったストラクチャー(構成)となっています。

『「そんな映画が撮れるのか」
「撮ります」
 僕と笠松市朗さんの間で交わされた最初の会話がそれだ。それから紆余曲折は、一切なかった。「では、撮ろう」という笠松さんの言葉で皆が動いた。集まってくれた。撮影期間はわずか三週間ほど。僕が経験した撮影の最短記録となった
 これは、ドキュメンタリーじゃない。フィクションでもない。
 笠松市朗という稀代の役者が最後に残した。彼の覚悟を映したシャシンだ。僕は文字通りそれを映しただけだった。』

この小説の出演者を紹介します。笠松市朗は、日本映画界を支えてきた名優。園田(四ノ宮)睦子は、伝説の女優、かって、笠松市朗と結婚していたが、離婚、その後、テレビ局の関係者と再婚。園田順一は、俳優、笠松市朗と四ノ宮睦子の間にできた子供、もう、五十歳を過ぎている。岡本裕は、俳優、笠松市朗が再婚した女性との子供、園田順一とは、歳の離れた異母兄弟。二品真理は、女優、岡本裕の婚約者。
この5人が、昔、笠松市朗と四ノ宮睦子が結婚していた頃に暮らしていた家で、家族として生活している映画を撮影することとなった。映画の撮影は、常に、カメラを回して、演技と素の区別が解らないほど、とにかく、撮り続けていく。もちろん、台本は、大まかなものしか用意されずに、アドリブが大半となる。小説は、13のシーンに分かれています。過去と現実と、演技と素が、交錯し合って、醸し出す世界は、ちょっと、今までの小説には無かった世界ではないでしょうか。もちろん、脚本本とも、違います。

『この映画は、不思議な映画だ。
 確かに家族の日常を撮るものだ。そういう意味ではドキュメンタリーだ。だがしかし、家族を演じる、というドラマでもある。老いた俳優が、自分の老いをそのまま映し撮るという、二つの意味で、生命までをも懸けたフィクションである。
 一度は解体した家族がもう一度映画を撮るために集まり、新しい家族を演じる。
 それが父と母と私だ。
 さらに、家族にならなかった血を分けた者同士が集まり、新しい家族を演じる。
 それが、父と裕と私だ。
 加えて、新しく身内となる者同士が互いにその絆を深めるドラマが、父と私と裕と真理ちゃんだ。
 構造として、三重にも四重にも、それ以上にもなっている。そういうものを、監督は撮ろうとしている。そんな小難しいことを可能と思わせたのは、私たち全員が役者だったという偶然だ。』

さて、「私」は誰でしょう。これが、この小説の面白さです。