「阪急電車」

tetu-eng2011-05-15

阪急電車
 有川 浩(HIRO ARIKAWA)
 幻冬舎文庫
 平成22年6月5日初版発行
 平成22年11月30日9版発行
 560円

『阪急宝塚駅は、梅田(大阪)へ直接向かう宝塚線と、西宮北口神戸線へ連結する今津線が「人」の形に合流している駅だ。これにJR宝塚線も乗り換えができるようになっており、やや地方の山間としては鉄道の三線が合流するささやかに大きいジャンクションとなる。
 そしてこの物語は、そんな阪急電車各線の中でも全国的知名度が低いであろう今津線を主人公とした物語である。』

阪急今津線は、「宝塚、宝塚南、逆瀬川、小林(おばやし)、仁川、甲東園、門戸厄神、西宮北」の八駅、15分のローカル線です。仁川には、JRAの阪神競馬場があり、昔から、ちょくちょく、お邪魔はしていました。息子の大学が、甲東園にあったので、キャンパス訪問などで甲東園に行ったこともありますが、その帰りには、やはり、仁川に寄り道したものです。その程度の関わり合いですが、阪急今津線は、何となく、身近に感じていました。

『電車に一人で乗っている人は、大抵無表情でぼんやりしている。視線は外の景色か吊り広告、あるいは車内としても何とはなしに他人と目の合うのを避けて視線をさまよわせているものだ。そうでなければ車内の暇つぶし定番の読書か音楽か携帯か。
 だから
 一人で
 特に暇つぶしもせず、
 表情豊かな人はとても目立つ。』

その阪急今津線を舞台にした映画「阪急電車」が公開されて、宝塚歌劇競馬ファン以外の人にも、一躍、阪急今津線は、有名になったことでしょう。その原作本が、有川浩さんの「阪急電車」です。Twitterのつぶやきには、『「阪急電車」見ました。乗客のマナーキャンペーンのような映画でした』との感想でした。私は、映画は見ていませんが、小説は、八つの駅を乗降するお客さんのハプニングがオムニバス風に、しかも、それぞれの駅で繋がりを持っているという、新しいスタイルの作品と言えるのではないでしょうか。

『時江は階段の途中に立っていた男女を見て目を細めた。
「呑みに行くなら今日、どうかな。この後空いていない?」
どうやら長い階段を駆け上がってきたらしい、男性の声は息が上がっている。
「あ、でも彼氏とかおったら困るよな・・・・」
「いませんよ」
 女性が快活な声で答えてにっこり笑った。
「彼氏は募集中です。だから、あなたと呑みにいくことに関して差し当たっての不都合はありません」
「じゃあ」
「喜んでお受けします」
 微笑ましい恋の始まりを横目に見届けつつ「おばあちゃん、電車来てる!」と急かした孫娘の声に慌てて階段を駆け下りる。』

読了後の感想。「面白かった」です。その一言に尽きます。読んだあとに、もう一度読みたい。映画も見てみたい。必ず、あなたも、そう思います。ここで、多くを語る必要はありません。是非、読んでみて下さい。今年、お薦めの作品です。