「つれづれ、北野坂探偵舎」

tetu-eng2014-02-02

「つれづれ、北野坂探偵舎」
 河野 裕
 角川文庫
 2013年9月25日発行
 552円(税別)

 最近のテレビ番組、特に、ドラマにもの申します。警察ものと医療もののオンパレード。特に、警察もの、月曜日「隠密捜査」(TBS)、火曜日「福家警部補の挨拶」(フジ)、水曜日「相棒」(テレ朝)、木曜日「科捜研の女」(テレ朝)、「緊急取調室」(テレ朝)、土曜日「戦力外捜査官」(日テレ)、日曜日「S−最後の警官ー」(TBS)。って、ちょっと、多くないですか。ぼくらシニア世代は、もっと、ほっこりした家族ものを希望します。まあ、ホームドラマですかね。向田邦子さんの脚本なんかありましたよね。何だか、警察もの、医療ものは、切った張ったで殺伐としていけないね。最近では、「何とかなるさ」(舘ひろし浅野温子)、「東京バンドワゴン」(亀梨和也多部未華子)、いずれも、低視聴率。まあ、若い人には受けないかもね。これって、ぼくの趣味の主張。

 さて、「つれづれ北野坂探偵舎」。タイトルから、神戸北野坂を舞台とした推理小説と思いますよね。ご当地、小説ってね。ところが、神戸北野坂にある喫茶店兼探偵事務所が舞台にはなっていますが、それ以外は、神戸の風景描写は全くなし。これでは、「北野坂探偵舎」でなくても、どこの坂でもいいじゃない。これが、第一の感想です。作者は、徳島県出身なので、「眉山探偵舎」でもいいんじゃない。タイトルで、ご当地小説っぽくするなら、もうちょっとねえ。これって、販売戦略ですか。と、勘ぐってしまいます。

 『迷子の猫捜しから心霊現象まで、なんでも解決。
 安心の地域密着型名探偵います。
 困った時には佐々波探偵舎まで。

 うん、怪しい。
 あからさまに怪しい。
 そもそも探偵舎というのが怪しいし、地域密着型名探偵なんて想像できない。たいした事件には遭遇しなさそうだ。猫捜しを否定するつもりはないけれど、煮干しを片手に町内をうろつくのは、名探偵のイメージからかけ離れている。
 そしてもちろん、当たり前のように「心霊現象」なんて書いてあるのが一番怪しい。
 でも端的に言って。
 その一番怪しい単語に、ユキは強く興味を惹かれた。』

 小暮井ユキが佐々波探偵舎に依頼したのは、彼女に見える「幽霊が探す本」に関することでした。北野坂の「徒然珈琲」その二階の「佐々波探偵舎」。佐々波蓮司は、探偵舎所長。元編集者。カフェ「徒然珈琲」オーナーです。佐々波の相棒、雨坂続は、小説家。佐々波は、彼のことをストーリー・テラーと呼んでいます。この小説のホラー的要素として、佐々波は、幽霊が見えて、幽霊と話すことができる能力があるということです。

 『「幽霊ってのは未練に縛られているもんだよ。強い未練を残して死んだ人間だけが幽霊になるし、幽霊はいつだって未練の成就を目指している」
 「どうしてわかるの?」
 「これまで、何百って数の幽霊を見てきたんだ。君だけが例外だと思う方がおかしい」
 「そうかな。一人も例外がいない方が不自然だと思うけど」』

 佐々波は、幽霊と話をしながら、「未練」を聴きだし、その「未練」を成就する手助けをします。「未練」を明らかにしないときは、雨坂が「未練」を推理します。でも、推理とは言わずに「物語を創る」だから、ストーリー・テラーです。

 この二人の「やり取り」が、この小説の肝だと思いますが、少し、技巧を弄しすぎて、分かりにくくなっていますね。続巻の刊行が予定されていますが、そのあたりが修正されていますか?そして、ご当地小説ならではの神戸がミステリーの題材となっていますか?ネ。

 なお、先週は、予告もなく、諸事繁多のため、お休みをいたしました。大変、失礼いたしました。読者の皆様に、深くお詫びを申し上げます。              店主敬白