「県庁おもてなし課」

tetu-eng2013-06-02

県庁おもてなし課
 有川 浩
 角川文庫
 平成25年4月5日初版発行
 705円(税抜)

 高知県庁に、「おもてなし課」って、ほんとうにあるがや?(何故か、土佐弁)調べてみました。高知県庁のHPに観光振興部おもてなし課がありました。有川浩(ひろ)さんは、高知県の出身。観光特使を依頼されて、その時の県庁の対応が、あまりにも民間感覚から、ズレていたことから、この小説を書くことを思いついたそうです。そのズレとは、時間感覚でした。観光特使の依頼があってから、1カ月、音沙汰がなかったそうです。民間では、1カ月、音沙汰なければ、その話はキャンセルが常識。しかも、依頼をしておきながら、その時は、名刺のレイアウトを含めて、詳細が何も決まっていなかったという体たらく。これには、有川さんも、わが故郷ながら、呆れたそうです。

『その年、高知県庁観光部に「おもてなし課」が発足した。
 観光立県を目指し、県外観光客を文字通り「おもてなし」する心で県の観光を盛り立てようというコンセプトのままに、親しみやすさを狙ってその課名はついた。
 しかしおもてなし課に配属された職員は、よくも悪くも公務員であった。・・・・悲しいほどに。
 県の観光発展のために、独創性と積極性を持ってどんどん企画を立案してほしい。知事からはそのような訓示があった。
 しかし、観光発展における独創性と積極性とは一体いかなるものか。今まで県庁各部署のルール内でしか行動したことのない彼らには、非常に想像の及びにくい部分であった。
 熱意がなかったわけではない。決して。
 しかし、未知の分野における成果を求められ、彼らの腰は重く、動きは鈍かった。』

 掛水史貴(かけみずふみたか)、入庁3年目の二十五歳、おもてなし課の中で一番若い職員、彼が、この小説の主役です。観光特使を依頼した地元出身の小説家である吉門喬介(よしかどきょうすけ)との出会いが、彼とおもてなし課を変身させることになりますが、予算と規則に縛られた県庁という行政組織の中で、前例主義にとらわれない独創性のある企画なんて、どうせ、つぶされます。そもそも、県庁の常識しか知らない職員に、独創性のある企画、それが、生まれてきません。掛水は、グダグダになりながらも、「高知県まるごとレジャーランド化計画」の推進にジタバタします。

『公共の無料パンフは客に魅力的な商品じゃない。客に届きやすい場所にも置かれていない。
 それは高知に限ったことではない。どこでも五十歩百歩。・・・・ということは。
「客が欲しがるような「商品」にして、流通まできちんとケアしたら、垢抜けられる・・・?」
 吉門がにやりと笑った。
「公務員の立場から「商品」って言葉が出てくるようなら合格」
 そこでヒント、と吉門は指を一本立てた。
「デイズニーランドに行った観光客が園内で真っ先に手に入れようとするものは何でしょう。」
 パチンと脳裏で火花が弾けた。
 そうか・・・・そうか、そうか、そうか。
高知県内の園内マップを作ればいいんだ、俺たちが!」』

 小説の全編にわたって、土佐弁が満載、高知の観光地の紹介もイロイロです。高知旅行に行ったのは、十二・三年前でしたか?桂浜、高知城、朝市程度の観光でした。そうそう、高校二年生の時に、修学旅行で、足摺・室戸と高知の両端に行きました。この小説、高知以外の自治体も研修資料として利用しているそうです。さらに、この本の印税は、すべて、震災復興のため寄付しているそうです。