「オー!ファーザー」

tetu-eng2013-12-22

「オー!ファーザー」
 伊坂 幸太郎
 新潮文庫
 2013年7月1日発行
 750円(税別)

 僕は、ツイッターの愛好者です。五十人ぐらいの有名人や作家さんをフォローしていますが、残念ながら、伊坂幸太郎さんは、「bot(本人ではなく、本人以外の人が本人のようにつぶやいている・・・の意味でいいのかな?)」のページしかないので、ちょと、残念ですね。「bot」で、癒されるのは、瀬戸内寂聴さんのページですね。寂聴さんの名言録のようなものですが、やはり、言葉に「味」があるし、「そうなんだ!」と納得できる内容が多いですよ。自分でも、ときどき、つぶやきます。何のためか?まあ、空き地に穴を掘って「バカヤロー」って叫ぶのと、同じ効果じゃないでしょうか?認知行動療法(コラム法)の一つじゃないでしょうか?まあ、ストレスを抱えているということですね。うむ、このブログも、同じですね。読んでいただける皆さんが、僕のカウンセラーのようなものです。お世話になります。
 僕に、「おやじ」が四人いたらどうしよう。小宮山由紀夫(高校二年生)には、4人の父親がいます。大学教授で深い見識を持つ「悟」、チンピラ風のギャンブラー「鷹」、中学教師で格闘技が得意な「勲」、元ホストのイケメン中年の「葵」。母の「知代」は、二股ならぬ四股をかけていたということですね。

『「四人が全員顔を合わせたのっていつだったわけ」
 父親たち四人はそこで思い思いに顔を見合わせた。そして、誰が率先して喋るべきか、無言で打ち合わせをする間があり、たいていそういう場合には年長者である悟が発言するのだ、と由紀夫が考えていると、実際、悟が、「おまえが生まれる、と発表された時だよ」と言った。
 由紀夫は、全ての責任はおまえにある、と指摘された気分になり少し怯えた。「それはみなさんにはご迷惑をおかけしました」と口にすると、父親四人はいっせいに笑った。』

 この家族、常識では図れませんが、父親四人と母親、そして由紀夫の六人家族です。家族なので、もちろん、全員が同居しています。由紀夫は、幸か不幸か、それぞれ個性の豊かな四人組の父親の愛情を受けながら育ってきたのです。まず、この小説の設定が、奇想天外ですね。これが、伊坂さんの小説の真骨頂でしょうか?さて、小説は、由紀夫が様々な事件に巻き込まれるたびに、この四人の父親が、それぞれの得意な分野を生かしてスーパーマンのように助けに現れます。それだけでは小説としては、設定が単純なのはお解りでしょう。由紀夫が巻き込まれる事件は、最後に、一つの紐でつながります。すべてが、最後の事件への伏線だったのです。これは、サスペンスでは、よくあるパターンですね。ただ、この小説は、世の中では、なかなか難しい父親と思春期の息子の関係を巧みに取り入れていることです。 高校時代に、親父が四人も同居していたら、脅威以外の何物でもないでしょう。

『「あの人たちも年取ってきたなって」
 「あの人たちって、お父さんたちのこと?年取るに決まってるじゃん」
 「だよなあ」由紀夫は言いながら、息を吐く。「きっと一人ずついなくなっていくから、なんとなく、変な感覚だろうな」
 「いなくなるってどういうこと」
 「何でもないよ」家族はいずれ、一人ずつ消えていくものなのだ。
 「何それ」
 「寂しさも四倍なのか」』

 なお、全編にわたって、母親は、常に、出張中です。これが、この小説の「ミソ」ですね。