「銀二貫」

tetu-eng2014-04-06

「銀二貫」
 高田 郁(kaoru)
 幻冬舎文庫
 2010年8月5日発行
 600円(税別)

 銀二貫とは、如何程か?一貫は、3750グラム。田中貴金属工業の買い取り価格が、約70円/グラムなので、約26万円、従って、倍の約50万円なり。ただし、江戸時代の物価に換算にすると、銀二貫は約33両、1両は、約10万円として、約330万円となります。

 物語は、安永、天明、寛成の頃、1770年〜1800代です。江戸中期、田沼意次松平定信の時代ですね。小説で言えば、ぼくの大好きだった「剣客商売」(池波正太郎)の時代と同じです。秋山小兵衛の息子大治郎の嫁となる女剣客の佐々木三冬は、田沼意次の妾腹の娘でした。って、つまらないことを覚えているものです。西洋では、アメリカ独立宣言が1776年、フランス革命が1789年、ナポレオン皇帝が1804年。まあ、そういう時代の大坂天満を舞台とした寒天問屋の丁稚どんが主人公のお話です。

『「大坂商人は何でも商売にすると聞いたが、銭で命まで買うとはな」
「お言葉ですが、建部さま」
 和助の目が、真っ直ぐに玄武を捉えた。
「私が買わして頂くんは、命やおまへん。仇討ちだけだす。また、お父上を斬殺された建部さまの恨みの念まで銭で消そうとは思てまへん。ただ、仇討ち、いうもんをその銀二貫で私に譲って頂きたいだけでおます」』

 雪の夜、天満の寒天問屋、井川屋の和助は、仇討ちの現場に行きかかります。そこで、気丈にも、剣先に立ちはだかり深手を負って、息絶え絶えの父親をかばう1人の少年鶴之輔を見かけました。そこで、咄嗟に、仇討ちを、持ち合わせの銀二貫で買いとったのです。この銀二貫は、天満の大火災で焼失した天満宮再建のための寄進の銭でした。

 鶴之輔、あらため、松吉は、和助の店の丁稚として奉公して、やがて、糸寒天を作り出し、井川屋を大店に育て上げるという、いわば、立身出世の物語です。と、二行で終わってしまうと、つまりません。当然、その過程においては、松吉の並々ならぬ苦労があるわけです。従来の寒天の製法から糸寒天の製法を編み出すこと、糸寒天をもとに、練り羊羹の製法を編み出すこと、もちろん、苦労話だけでは、色気がないので、真帆屋の嬢(いと)さんとの想いのこと。

 話は変わりますが、寒天のもとは、ご存じ天草ですよね。それはいいとして、心太(ところてん)と寒天の違いですが、実は、心太から寒天に変身するって知っていましたか?

『<ええか、鶴之輔、こうしてどろどろになった天草を布で漉して置いといたら、自然に固まる。これが心太や。寒天は、この心太を寒空に干して乾燥させたもんなんや。「寒晒しのところてん」で、寒天なんやで>』

 もうひとつ、羊羹は、蒸し羊羹なるものがそもそもの羊羹で、現代の練り羊羹は、餡子と寒天を合わせて作られたそうです。

 話を元に戻しますが、この物語のキーワードは、「銀二貫」。仇討ち買いの「銀二貫」が、物語の展開の場面、場面で、違った「銀二貫」として登場します。このあたりの話のつなぎが絶妙ですが、物語のエンデイングは少し急ぎすぎた感じがします。

 高田さんは、宝塚の出身で、もともとは、漫画の原作者として、デビュー。「みをつくし料理帖シリーズ」(これも時代小説、たしか江戸が舞台かな?)が出世作ですかね。小説に書く料理は、自らも、作って確認するそうです。